弐.ここは小説の世界でした
意識が遠のいた状態で、私は頭の中でいろいろな考察していた。
――ある日突然、魔方陣が自分の下に現れて自分を包み込む……つまり、今の時代に流行っている異世界転生⁉
――だが、異世界転生は死んだ時になるはず……私は死んだのか⁇
――ハイハイしながら⁇それは無いわな……とすると、異世界召喚⁇私が勇者的な何かか聖女様……それとも悪役令嬢とかで、ハイスペック男子と恋愛もの⁉
そんな事を考えていると、徐々に視界が広がりぼんやりと景色が見えてきた。
薄ら暗いが、見た事の無い草原や綺麗な街が見えてくるのだと期待していた……だが現実は違った。
景色がくっきりと見えるというのに、どんよりとした薄暗い空が見えた。
周りを見渡すと生い茂って今にも幽霊が飛び出してきそうな木々がたくさんある。
辺り一面、木々に覆われているので、どうやらここは森の中だと思われる。
目の前には闇に
「何ここ……」
辺りを見回すが、先ほどまで自分がいた場所と変わらず、人っ子一人いない状態だ。
風が吹く度に、木々が話をしているかのようにざわざわと音を立てる。
「なんか、既視感ある気がするのよね」
森とトンネルを何度も見回して、ふと気付いた。
これは私が書いたネット小説……あの山田の目に留まったあの
「一番……初めのストーリーよね」
主人公の女性はある時、目覚めるとトンネルの目の前に倒れていた。
最後の記憶は、友人が学校から帰るのを見送った後に、今日から付き合い始めた彼氏と一緒に帰宅する途中までだ。
今は真っ暗の空なので、夜もしくは夜中であろう。
辺り一面、木々に囲われており、自分を
目の前に見えるトンネルは、早くご飯を食べたいと言うように大きな口を開けて自分を待っているのだ。
どこかわからない不安と恐怖で動けずにいる時、トンネルの奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
それは彼氏の声だった。
彼がトンネルの先にいると思い、彼にこっちに来るよう声をかけた。
だが、彼は自分が気絶している間に、ここが何処なのかを探索しにトンネルに入ったそうだ。
探索中に
そんな彼氏を助けるために、彼女は勇気を振り絞ってトンネルの中に入っていくのだ。
スマホの明かりで地面を照らしながら、歩いていくと段々と彼の声が近くなってきたので、徐々に早足になっていく。
――ここだよ
彼が自分にそう声をかけてきたので、声の先を見た。
そこには、足が瓦礫に挟まった白骨死体があった。
彼女は恐怖のあまり走りだす。
出口へ……とにかく光のある場所へと走り続けた。
どのくらい走ったかはわからないが、彼女は真っ暗なトンネルの先に一筋の光が見えるのを確認したのだ。
やっと出口に辿り着いたと
『ニガサナイヨ』
とても低い声が耳元で聞こえた途端、彼女は左足を勢いよく引っ張られて倒れてしまった。
その状態でズルズルと暗いトンネルの中に引きずり込まれて消息不明となってしまうのだ。
それは、中学校一年生の時の話だ。
友人のいなかった私に初めてできた友人は、誰がカッコいいとか恋バナをするのが好きな子だった。
私は密かに意識していたクラスメイトの男の子がいたのだが、その男の子を観察するだけで話した事はなかった。
だが、まるで母親のようにその男の子について友人に話をしていた。
友人は別のクラスにいるサッカー少年の男子をカッコいいと言っていたので、話しても別に良いだろうと思っていた。
だが、事件は起きたのだ。
それは学年行事の遠足で、山登りに行った時の話だ。
友人と私、そして私の気になる男子は同じグループになったのだ。
気になる男子と同じグループになれた事に浮かれた私は、なぜかその男の子に勇姿を見せるよう気合を入れていた。
私はひ弱なほうであったが、山登りに関しては神秘的な力によりサクサク進める謎のパワーを持っていた。
そのため、グループから外れていると気付かずにサクサクと頂上を目指した。
そんな私を友人は必死に追いかけていたのだが、貧血を起こして途中で倒れてしまったのだ。
そんな事になっているとはつゆ知らず、私は頂上でこだまと
山を下りて担任に団体行動ができていない事を
その後はグループの人達に謝ったのと友人の体調不良について心配をして、その日は終わった。
そして、次の日に登校した際、大事件が起きたのだ。
友人と気になる男子が仲良く話をしていた。
友人に聞いたところ、遠足で体調不良の時にその男の子が動けない友人をおんぶして下山したそうだ。
友人は今までただのクラスメイトくらいにしか認識していなかったが、頼りがいのある素敵な人だと思ったと言っていた。
友人の顔は恋をしたような感じではあったが、別のクラスのサッカー少年を好んでいるはずだ。
だから自分の思い過ごしだと負の感情を心に終い込み、その男の子の事を褒めまくっていた。
そこから数日して、友人とその男の子は付き合い始めた。
放課後、一緒に帰ろうと友人に声をかけた際、今日から彼氏と帰ると言われたのだ。
そして、目の前に現れた彼氏はあの男の子だったのだ。
「……おめでとう」
魂が抜けた状態の私は、二人に見送られる形で家に帰った。
そこから家で発狂し、眠る事なくこの作品を書き上げたのだ。
作品を作ってネットに投稿した当初はスッキリしたものの、友人を殺してしまった罪悪感が芽生えた。
さらに、私が勝手に考えた二人の絆に感動してしまい、いつの間にか二人を応援する人になっていた。
ちなみに、二人はそのまま結婚までゴールインして、三人の子供たちと仲良く暮らしていると、年賀状で書かれていた。
その時は少し発狂しかけたけど、今では友人が幸せになっている事がとても嬉しいものだ。
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