ホラー小説は如何なものかと
紗音。
トンネルの呪い
壱.始まりは山田から
「
静まり返る夜道で、酔っぱらいのごとく大きな声を出す女がいた。
それは私、
私は日頃、日記を書くように小説を書いていた。
ネットに上げていたある作品が運よく編集者の目に留まり、小説家デビューする事になった新人小説家だ。
山田というのは、私の担当になった男の名前だ。
まずは読み切り作品からと優しい口調で山田に言われて、年齢=彼氏いない歴の私は一人で勝手に盛り上がっていた。
デビュー作という事で気合を入れて完成させた作品は恋愛もの、その時の私は夢見る少女状態だった。
ヒロインは私で、ヒーローは山田……そんなキラキラと輝く作品を手に、私は彼氏候補(笑)の山田へ作品を見せに行った。
――どんなものでもいいから、作品を書いてみてください。
――まずは作品を作る事が大切ですから、一緒に頑張りましょう。
その言葉を信じて山田に読んでもらった。
……が、結果はボロクソに言われ、やり直しを命じられた。
何を隠そう山田が目に留めた私の作品は、ホラー小説だったのだ。
山田が作品に対してボロクソに言っている時、私の目から山田に付いていたイケメンフィルターは
よく見ればボサボサの黒髪に、
夢が崩れ去った乙女の私は、作品のダメ出しよりも乙女心を傷つけられた事に怒りを感じていた。
その怒りを糧に、次の作品を全速力で書いた。
「何が、『やればできるんですね。前回はネジが飛んだのかと思いました。』よ。ネジじゃなくてあんたが吹っ飛びなさいよ、禿ナス!!」
地面を山田と思い、踏み
だが、本当に踏み潰している気持ちになってきて、ノリに乗って地面を踏み潰し続けている時だった。
「ぎゃっ!!!!」
……こけたのだ。
地面を踏み潰す音よりも静かにこけてしまった。
何が起きたか分からずに辺りを見渡すが、辺り一面には何もない。
こんな夜中に酔っぱらいくらい居てもいいのだが、誰もいないのだ。
山田が突然現れて背中を押したわけでも、何かに
「な……何よ、幽霊でも……いるんじゃ……ないでしょうね?」
本当は誰かいるのではないかと、街灯の明かりを頼りに辺りを確認するが、見る限り人の影すら見えない。
つまりは、人間以外という事だ。
野良猫やそこらを歩く
「へっ……このくらい、ホラー小説家になる美乃利様には、へっ、へっちゃらよ!!」
何を隠そう私は
ホラー小説を書いたきっかけなんて、町を歩くカップルや自分の好きな人を奪った友人に対しての怒りを鎮めるために書いていただけだ。
そんな怖い事なんて、自分の身には起こりえないと思っていた。
気合を入れて身体を起こし赤ちゃんのハイハイポーズで構えた。
息を整えて前方に意識を集中する。
「……っしゃ!!いくぞ!!!!」
無駄にカッコつけた掛け声を出し、右足に力を入れて地面を
良い感じのスタートダッシュできたので、これならいけると喜びを感じた。
しかし、左足が地面についた瞬間だった。
「ぎゃっ!!!!」
また、身体はよろけてしまい、地面に左腕から倒れこんでしまった。
勢いよくコンクリートの地面に倒れたため、左腕が痛くてしょうがない。
痛みに
先ほどこけた時も左足だったのだ。
もしかしたら左足を引っ張る幽霊でもいて、ズルズルとあの世に引っ張っていくとかするのではと不安になりながら、恐る恐る左足の方に振り返った。
「……ない」
ヒールがどこかへ飛んで行ったのか綺麗に無くなっていたのだ。
辺りを見回してもヒールは落ちていない。
「うそ……高いのに、せっかくのできる大人計画が……」
私はぶつぶつと呟きながら、またもハイハイポーズを取り、辺りを
できる大人計画とは、社会に出てバリバリ働き高級感を
まぁ、夜はヒールを使った大人の時間(笑)とか勝手な妄想をしていたが。
デビューが決定したので、私もその仲間になるためにまずは形から入る事にしたのだ。
今回、小説家デビューで浮足立った私は、都会に繰り出した。
いつもの靴の十倍以上する店に、ガクブルしながら入店した。
入店早々に店員が現れ、魔術を使うかの
魔術に惑わされた私は、その店で一番人気というとても可愛いハイヒールを購入する。
……予定だったのだが、足のサイズが合わなかった。
そのため、二番人気のブーツを購入する。
……予定だったのだが、ふくらはぎのサイズが合わなかった。
そうこう繰り返していくうちに、ショップ内で一番安いが大きめサイズのあるハイヒールに
そのせいで、お店を出るまでショップの店員は張り付いた笑顔で私を見ていたのだ。
まぁそんな事、今はどうでも良いのだが、私の大人計画は山田のせいで跡形もなく消え去りそうなのだ。
私は全神経を集中し、辺りを見渡した。
一度目に転んだ時から二度目に転んだ時の移動距離はほとんどない。
この場所からもし勢いよく飛ぶとしたらヒールはどこまで飛ぶのか、無駄に数字の計算を行いハイハイで地面を
「あっ、あった!!」
かなり離れた距離にある家の壁の横にある電柱の影に、ヒールが転がっていた。
他の人から見れば、ただ転がっているヒールにしか見えないだろうが、今の私には国宝のように尊く、宝石のようにキラキラと輝くヒール様が見える。
さらに、謎の計算式や論理で見つけられた事にテンションは最高潮となり、目的の場所に向かって全速力ハイハイをし始めたのだ。
「えっ⁇」
もう少しで、大切なヒールに辿り着くという時に足元から謎の光が発せられたのだ。
全速力ハイハイは緊急停車し、光る地面を見る。
そこには見た事もない魔方陣が広がっていたのだ。
「えっ……うそ、これってもしかして⁉」
ふわっと身体が光に包まれて、意識が遠のいていった。
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