龍の教師 ~『龍に近づくと眠くなる』不幸体質で学園から追放された俺、積み上げた本来の実力で龍人少女たちを導いて最強の教師となる「おい、いい加減ひとり立ちしてくれ。いつまで付きまとう気だ」~

和成ソウイチ@書籍発売中

1.龍と接すると眠くなる教師



「火を噴く生徒に凍らせる生徒。皆違って皆良い――って言うと思ったかコラァ!」


 新暦一二〇一年五月――。

 涼やかな風が吹く山の一画で、今日も『教師』の声が響き渡った。


 視線の先にはちょっとだけしょんぼりした少女――もとい、『生徒』が二人。

 教師と生徒の間には、きっちり五歩の距離が開けられている。授業中の取り決めだった。


「まずピヨ龍赤!」

「我の名はライナだ! いい加減覚えろ!」

「やかましいわ! 土を耕してる間は火を噴くなとあれほど言ってるだろが! 無駄な体力使わなけりゃ、お前はもっとやれるんだ。やる気は火で吐き出すんじゃない、中に溜めろ。それが熱中するってことだ!」

「むう……」

「それからピヨ龍白!」

「スチサですぅ……ピヨピヨ」

「そこは素直に受け取らなくていい。お前はもう少し自分に自信を持て。俺が言えた義理じゃないが、ちゃんと前には進めてるんだ。ささいなことでムキになるな」

「そうですよね……今度からは飾り羽の色味を貶されても耐えるようにします……全力じゃなくて六割くらいの氷結魔法」

「いや耐えるよりも受け流せ。お前は服飾に関して沸点が低すぎる。このままだと凍死するから。俺が!」


 がりがりと髪を掻きながら、教師――クラーロは背を向けた。


「とりあえず、今日はここまで。まあ進歩がないわけじゃない。引き続き頑張れ。俺もできることはしてやる」

「そうか。なら次はお前の番だな」


 ピヨ龍赤――ライナの声がすぐ近くから聞こえ、クラーロは振り返る。

 直後、二人の龍人少女が腕に抱きついた。


「なっ! おいコラ、やめろ! こんなに近づいたら、また俺の体質で――!」

「ふふん。我らにも貴様に教えられることがあるのだぞ? 体質改善には我らが必要なのだろう」

「クラーロ先生だって進歩してるんですよ? 出逢った当初は『六歩』でした。私たちとの安全距離。それが今は『五歩』なんです。一歩改善です! 凄いです!」

「や……だから……やめ……眠……」


 薄れゆく意識と視界の中、悪戯っぽく笑う二人の顔がぼんやりと映る。

 畜生、この龍どもめ。こんな生意気で問題だらけな奴らを――。


「ま、ゆっくり休め」

「先生、おやすみなさい」


 たった一年で教育しなきゃいけないなんてな――。


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