森から聞こえた声(12月24日分)

今日は少し妙な事が起きた。


ルイベーユから真っすぐ北に向かっている途中で、俺は誰かの悲鳴を聞いた。

護衛している馬車の左手には森があったのだが、声はそこから聞こえて来た。

「助けてー! 誰かー! お願いー!」

と必死に助けを呼んでいるので、俺は他の護衛に声を掛けて止まるように言った。


するとみんな怪訝けげんそうな顔をして俺を見た。

耳がキンキンするほど大きな声だというのに、全く聞こえないというのだ。

俺は森の中を指差して、声がするたび「今聞こえただろう?」と言った。

だが護衛仲間も、降りて来た商人たちも、首を横に振るばかりだった。


やがて護衛仲間の一人が、何か思い出したようにその辺りの地図を広げた。

「ここらの森はこういう妙な事が起きるので有名な場所だ」と彼は言った。

地図には赤い丸をしてバツ印がつけられていた。危険だから絶対に近付くな、という印だそうだ。


何の仕業か分からないが、俺にだけ聞こえるというのは、良くないものに呼ばれているのだろうと彼は言った。

そんな場所でのんびりしていると危険だ、という事で少し移動を早めることになった。


だが俺には、あの声はそんな恐ろしいものには思えなかった。

本当に切実に助けを求めていた気がして、声が聞こえなくなった今も気になって仕方ながない。

この仕事が終わるのは明日の午前中だ。

なので終わったら、もう一度あの森に行ってみようと思う。

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