春を告げる雪(12月19日分)

最近少し暖かいようだが、今日は太陽が出ている割に寒かった。

長い間ここにいて気付いたが、雪の降る日でも暖かい時はあるし、晴れていても寒い時がある。

北に来て一番驚いたのはそこかも知れない。


だが今日は更に驚くことが起きた。

いつものように防寒着を着て、ギィに挨拶して外に出ると、妙な雪が降っていたのだ。


晴れた日に雪が降る光景は、俺もこの冬に何度か見てきた。

だがその日の雪は、いつものそれとは全然違っていた。

朝日を背にして透けるようなその雪は、手でれる事さえ出来ない。

地面に落ちる事もなく、まるで紙切れのようにふわふわ風に飛ばされ、空中に消えていくのだ。


初めて見る光景に、俺は宿に戻ってフランとギィを呼びに行った。

フランは息を呑んでその光景を見つめた。彼も初めて見たらしい。

ギィも珍しいものを見る顔をしていたが、「これは花雪イリーズだよ」と教えてくれた。


暖かくなって雪が減ってくる頃、空の高い所だけが寒いと降る雪だそうだ。

どうしてそんな事が分かるんだとくと、これはドワーフに教わったという。

もっと寒い、それも高い山に穴を掘って住む彼らは、そういう事をよく知っているらしい。


昔からこの辺りでは、これが降ると春がやって来るんだ、とギィは言った。

彼は嬉しそうに目を細めていた。

その隣に並んで、俺とフランもしばらく花雪を眺めた。

右に左に舞う雪は踊っているようで、どこか心が浮き立つ光景だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る