じゅうさん【眠】(2021/12/13)
布飾りをわたしの髪に編み直してくれたノーエとルーに手を引かれて案内されたのは、大きな葉を持つ低木の茂みだった。
川辺は風が寒いから、と連れてきてくれたこの場所はノーエとルーのとっておきの場所だという。
二人に続いて、頭を屈め茂みをくぐると、ちょうど枝葉が重なりあった部分に、ぽっかりと空間が広がっていた。
どこもかしこも葉に覆われているその場所には、タンザとユノさんの家のように絨毯が敷かれ、座布団が置かれていた。
枝にかけられたガラス玉が連なってきらきらと光っていた。
色布でつくられた花飾りもところどころに咲いている。
夏になったら木苺ができるんよ、とノーエが得意そうに教えてくれた。
二人が指差す方へ見ると、大きな葉が重なる隙間からさっきいた川も、その向こうの街並みも見える。
母ちゃんが言っちゃいかんよって言ってたんやけど、とルーは言った。
「おねーちゃん、宝珠の森に捨てられてたってほんと?」
「森でタンザ
向かい合って座る二人が、わたしの膝に手をのせ探るように聞いてきた。
宝珠の森は、タンザがユノさんにわたしのことを話した時に言っていた場所。
ユノさんもおんせんで、わたしのことを聞かれた時に、宝珠の森にいたのをタンザが連れてきた、と言っていた。
だからあなたの宮城と神樹があるあの場所は——いつの間に木々に囲まれてしまったと聞いたその場所は、みんなの言う宝珠の森であるのは間違いないのだろう。
けれど。
「捨てられていたわけではないですよ」
「ほんと?」
なぜなら、わたしはあなたに乞われ、自らあの場所に入った。
あなたがわたしを眠りに落とした時も、止めることはしなかった。
「タンザに見つけてもらったのは、本当です」
「迷子だったの?」
「宝珠の森で何してたの?」
「眠っていました。タンザは眠っていたわたしを起こしてくれた人です」
神樹の内から連れ出してもらった。
抱えてもらった時にはもう、タンザの声も温度も届いていて、わたしの眠りも揺すられてはいたけれど。
こうして今も起きていられるのは、あの方の眠りの
儲けたね、とグーナ婆が言ったそれがそうだったのかはわからない。
わたしがいなくなったから、最期に残っていたあの場所まで壊れしまった。
それでも。
連れ出してもらった先のタンザとユノさんがいる場所は、あなたが整えてくれた神樹の中と同じくらい、あたたかくて居心地がよいと思う。
宮城以外の場所を知らなかったから、今いる場所を不思議に思う。
「寝てたの?」
「宝珠の森で?」
改めて頷くと、二人は揃って渋い顔をした。
「宝珠の森で寝ちゃうなんて危ないよぉー」
「母ちゃんが宝珠の森には近づいたらだめって言ってたよ?」
「前王朝のおばけがでるんよ? 入ったら出られなくなるって」
「変な音聞いた人もおるんよ? きっとお化けが呼ぶんだよ」
「そうなのですか?」
「「そうだよぉー」」
よかったねぇ、なんにもなくて、と二人はわたしを抱きしめて言った。
大丈夫でしたよ、とわたしは二人の袖をひく。
「悪い場所じゃありませんでした。お化けにも会えませんでした」
「「そう?」」
「ちゃんと出てくることもできました」
わたしを抱きしめたまま、ノーエとルーはわたし越しに顔を見合わせて。
「「じゃあ」」
宝珠の森で眠るってどんな感じだった? と揃いの声で聞いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます