第5話

 その日。

 

 世界は光を見た。

 世界は奇跡を知った。

 世界は渇きを覚えた。

 

 この世の秩序が守られる。

 世界は静寂に包まれた。

 

 欧州での火種、アフリカの内乱、日米ソ冷戦。

 それらはすべて終焉を浮かべた。

 

 とある動画投稿サイトに登録している一人の男のチャンネル登録者数はすでに十億を越え、更に伸び続けいてる。

 一人の男の自己紹介動画の再生数はすでに億を越え、兆に達した。

 スパチャ額は異常なほど膨れ上がっていた。

 一人の男は機械に慣れていなかったのだろう。

 ライブという機能をあまり理解していなかったのかも知れない。

 兎にも角にもライブがつけられていた。

 ライブは彼の言葉を拾い、全世界に発信していた。

 彼の声が、彼の声が、彼の声が、

 

 

 世界に彼の自家発電するときの声が、喘ぎ声が響いていた。

 

 

 人々は思い出す。

  

 否がおうにも思い知らされる。

 この世界はオナニー行為によって作られたと。


 アトゥムはヘリオポリスにて自涜するものとなり、彼は手に自らの陽根を撮りて、欲望を刺激しぬ。息子と娘がこれにより生まれたり

 

 人は涙する。

 世界の誕生を祝って。

 新たなる世界の誕生を祝って。

 

 世界が止まっていた。

 この世に生きとし生きる女性の大半は食い入るように画面を見る、耳を傾ける。

 五感すべてを持ってして感じる。感謝する。

 仕事なんてない。

 世界は静まり返り、大地の息吹が鳴り響く。

 地球が合奏を奏でていた。

 

 人々は思い出す。

 本能を。

 人々は自覚する。

 自らの飢えを。

 彼女たちは野生へと変える。

 大地は絶望の声を上げた。

 動物は虫は食い殺された。

 海は、川は呑まれる。

 血が流れていた。

 男に耐性があった既婚者たちはなんとかしようと奮闘するも、大いなる民衆の流れには逆らえなかった。

 

 一ヶ月。

 一ヶ月もの月日が流れた。

 人々はようやく理性を取り戻した。

 人として、文明人としての生活を取り戻した。

 彼らは久しぶりに職務に復帰する。

 当然だ。

 この世の中の女性が本能に帰ってしまえば、彼が生活出来なくなってしまうではないか、と。

 彼女たちにはようやく耐性ができた。

 男を見ても理性を失わないだけの耐性が。

 そして、そして、そして、

 

 それと同様に思い出す。

 

 自らの渇望を。

 

 自らの本能を。

 

 自らの使命を。

 

 繁栄を。人類の繁栄を。

 子供をなし、子孫を残し、永遠の生を。

 終わりなき人類の歴史を。

 

 この世界の女性は一段高みに昇った。

 新たなる境地に。

 求められる。

 この世界の男もまた進化しなければならない。


 人類は今変換の時を迎えようとしていた。

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