第9話
「ひゃぁぁああ!?待って!レモンティーをこぼした!冷たっ」
久しぶりのボイチャ。
ミュートとはいえ、久しぶりのボイチャに緊張してしまってうっかりレモンティーが入ったグラスを倒してしまった。
倒れたグラスからレモンティーがこぼれ、僕の服を濡らす。
……冷たい。
あー、せっかくのレモンティーがもったいない。
新しくレモンティーを汲んで、何か拭くものを探してこよ。
「「え?」」
僕が空になってしまったグラスを持ち、こぼれたレモンティーを拭くためのタオルを取りに行こうと席から立ち上がった時、イヤホンから水面と委員長と思われる女性の声が聞こえてくる。
二人の声は酷く困惑したようなものだった。
ん?どうしたんだ?
僕が不思議に思い、パソコンの画面に視線を戻すと、そこはボイチャの画面。
「あ」
ミュートになっていない。
僕はゆっくりと腰を下ろす。
……。
…………。
「やっば」
僕の口から出たのはこれだけ。というかこれだけしか出なかった。
「ひやぁせいこんのだそどこっにこあいせはやぁいるあうおんいぇかぁぁぁぁ!?」
謎の雄叫びがイヤホンを通じて僕にダイレクトアタックしてくる。
いや、相手は女性だから雌叫びか。
……耳がキーンってする。
「ご、ごめんなさい。霧音がちょっと取り乱してしまってみたいでして……。ちょっとボイチャ切りますね」
おぉ!
僕は内心で歓声を上げる。
まさかこんなにも理性の残った受け答えをしてくれるとは!僕に和葉がいなければ求婚していたところだぞ!
「りょーかいです」
少しだけ気分の良くなった僕は元気良く答える。
……。
……………。
沈黙。
ボイチャを切ると言っていたのに全然切られていなかった。
「切らんと?」
僕はつい言葉を挟んでしまう。
言葉を挟まずにはいられなかった。
「今切ります」
和葉は僕の言葉を聞いてすぐにボイチャを切った。
ボイチャが終了し、ギルドのチャット欄に戻る。
「ふんふんふーん」
僕は鼻歌を歌いながらチャット欄に言葉を書き込む。
……。
…………。
返答はない。
僕は次の言葉を書き込む。
……。
…………。
返事はない。
言葉を書き込む
……。
…………。
返事はない。
え?
水面も委員長も見事なまでのスルースキルを発揮し、僕のことを完全無視してきた。
嫌われた?
ボイチャをすぐ切るように言ったから?……あれ?僕そんなこと言った?
いや、言ったのだろう。
ボイチャをすぐ切るように言ったせいで、嫌われた?
いや、そんなわけがない。この世界の女性が男を嫌うとは思えない。この世界は男にはあまりにも優しすぎる。
じゃ、じゃあ僕がボイチャをすぐに切るように言ったせいで、僕に嫌われたと思ってショックを受けている?
はわわ。
やばい!
『ボイチャしよーぜ。もういいわ。開くね』
僕は衝動のままに行動を行った。
それがどんな結末を招くのかを知らずに……。
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