12時間前 7/6 PM5:00
7月6日17時ごろ。黄昏時と言うには、まだ少し早い時間に、サトシとケイはやってきた。
二人が来るまで、わたしは僧侶様の書斎で調べ物をしていた。寺院は資料の倉庫だ。そこにしかない一次資料(昔の日記など)も多いし、出版社がまとめた二次資料もある。インターネットも繋がるから、PDFの論文も読める。
それで大体纏めたものを、ケイやサトシがこちらに来る前に、プレゼンテーションにまとめておいた。
「というわけで、なぜなに大分県feat.いら〇とや、はっじまるよー!」
「フューチャリングするな、いら〇とやを! ……いや、あってんのか?
たった今、客殿に到着したサトシに突っ込まれるが、流れるように自分でツッコミを入れ始めた。なんなんだ君は。
改まって言うことでもないけれど、プレゼンと言えば
その高い汎用性かつフリー素材であることから、大学の授業やゼミ、社会人の会議、さらに漫画の第一話をいら〇とやに変換させて無料公開するなど、幅広い年代やジャンル(?)に愛されている。
「何なら術士の中には、いら〇とやを模した式神作る人もいるっていうしね!」
「それはサイトの利用規約的にどうなんだ?」
「……どうなんだろうね?」
――と、いうのは置いておいて。
「それではさっそく――」
「少し待ってくれ」
スクリーンを動かそうとして、ケイに止められた。
ケイは右手を肩の位置に上げたまま、あまり表情を動かさずにこう続ける。
「実はもう一人来る」
「え、誰よ」
そう言ったのはわたしではなく、サトシである。
「さっき仕事で別府に行くと連絡したら、手伝いに来ると言っていた」
「だから、誰よ」
今度はわたしが尋ねた。
「
その名前に、わたしとサトシは雷に撃たれたような衝撃を受けた。ついでにルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲5番が脳内で流れ始める。
よろめいたわたしは、何とか身体を持ち直し、頭を抱えた。
……今日のわたしは、姫ちゃんに合わせて「女」になっている。今日の姫ちゃんはトップをピンクのフリルシャツで決めていたので、わたしは水色のオフショルダーを着てきた。
つまり、露出が多い。
「……ケイ」
「こんなこともあろうかと服を持ってきた。男物の」
ホンットーにありがとう、ケイ。
わたしはケイがセレクトした服を着るために、トイレに向かった。
ここで簡単に、〈憑き物〉と〈血族〉、術士と呪具使いの特徴について述べよう。
〈憑き物〉は、人間の身体に、身体をもたない妖怪が取り憑いている。幽霊に取り憑かれるイメージだと考えてくれたらいい。これによって、普通の人間にはない、超常的な力や身体能力を持つことになる。ケイは龍蛇の〈憑き物〉、サトシはサトリの〈憑き物〉だ。
一方〈血族〉は、単体で身体を持つ妖怪と人間の間に生まれた人を指す。サブカルチャーじゃ、『半妖』が通じるだろう。
〈血族〉は〈憑き物〉と違い出自を問うモノであり、妖怪を先祖に持つなら「妖怪の能力を持つ・持たない」関係なく〈血族〉と呼ばれる。
〈憑き物〉には大きく分けて2パターンあり、ケイたちのように身体自体を変化させるタイプ「融合型」と、別の思考を持つ存在が肉体に憑く「憑依型」に分けられる。
例えば悪霊やキツネなんかは、「憑依型」に含まれる。
「融合型」は、どちらかと言えば能力を持った〈血族〉に近い。
なので、対外的に見れば「融合型」と〈血族〉の違いは見分けられない。何なら、先祖の妖怪が子孫に取り憑くパターンもある。この辺りが複雑である。
それに対し、術士とは
実は術士は、妖怪の中にも存在する。例えば源義経に剣術を教えた鬼一法眼は僧侶のなりをした陰陽師であり、同じく牛若丸に剣術を教えたとする鞍馬天狗と同一視される。というか天狗自体、密教系の僧侶が邪道を使うことで魔道に落ちた姿だとも言われているぐらいだ。
そして呪具使いはわたし。呪力を持った道具や、付喪神を使って行う者のこと。
術士は道具も使うけど、あくまで補助として使う。殆どは術士の才能によるものだ。そのため、優れた術士は自力でいろんなことが出来る。一方呪具使いは、メインとして使うことが多く、能力の幅は狭い。ただ、いわくつきの呪具を使えるものは、基本その人にしか使えないから、場合によって呪具使いが重宝されることもある。
さて、肝心の
英彦山に住む烏天狗は信仰心篤い者を助け、不心得者には罰を下すと言われている。言わば正義の烏天狗と言ったところか。
で、陽彦くんもまた、誠実で温厚、口調は丁寧、かつここぞという時は勇猛果敢。頭も良くて武道にも優れている。
おまけに姫ちゃんレベルの美貌の持ち主で、言ってしまえば宝塚の男役がそのまま男性として生まれてきてしまった。
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