山の力
付喪神である『鏡』がカウントされるのなら、わたしと一緒にいた〈ソメさん〉も数に入っていたはずだ。だからわたしが鏡に引き込まれた時には、すでに八人になっていたはず(『鏡』や〈ソメさん〉を人と数えていいかはひとまず置いておく)。
生贄を用いる術は基本、多くても少なくても発動しない。
それなのに、蠱毒の術が発動したと言うことは。
「〈ソメさん〉、『鏡』に眠らされてた?」
『これから敵の本拠地に行くと言うに、我らがのんきに寝てると思うかえ?』
「だよねえ」
ケイと違って、わたし自身に退魔の術はない。妖怪や幽霊を祓うどころか、本来なら妖怪も幽霊も見えない。それで退治屋の仕事が出来るのは、〈ソメさん〉の力を借りているからだ。
だがら今回も〈ソメさん〉の力を借りて、パパっと蜘蛛を退治しようと思ったんだけど、なんと『鏡の世界』に入った瞬間、〈ソメさん〉の意識がなくなるというトラブルに見舞われてしまった。今回は『蠱毒』だったから、逆にそれで助かったんだけど。
あのまま暴力的に倒していたら、被害者や黒田君、そして今抱きかかえているこの子と融合してしまったかもしれないし。
「さっき言ってた、『鏡』の管理人権限ってやつなのかな。〈ソメさん〉さえ弾き飛ばせるなんて、すごいね」
『八女の近くであるし、山の力も借りているのだろうよ』
〈ソメさん〉にそう言われて、わたしは、目の前にそびえる山々を見上げた。
そしてここから見て南側に位置する八女の山々は、
なるほど、術士が喉から手が出そうな場所だ。さては退治にかこつけて、土地を奪う算段でもするつもりだったのか。
「周りは滅茶苦茶古代の神秘で囲まれてるのに、ここは真っ白なんだから、そりゃ狙われるよなー。なんで今まで無事だったんだろ」
『ゆえにあの付喪神がいたんだろうて。この学校の創立当時からいたようであるし』
なるほど。新しい校舎なのにわざわざ古い鏡を持ってきたのは、あの『鏡』自体がすでに守り神として知られていたからだったのか。鏡は古くから神が宿るとも言われているし、魔除けになっていたんだろう。願掛け程度なら、教育基本法15条には触れないだろうし。
少し曇ってはいるけど、いまだに割れもせず、シケもなかった。よほど、大切にされてきたんだろうな。
「……モノですら、大切にされるのにな」
わたしは腕に抱える猫のような身体――幼児と言っていいぐらいの術士――の身体を撫でる。
術士は、すうすうと寝息を立てていた。
毛並みはあまり、艶やかではない。撫でるほどフケやコナが出てくる。皮膚もボロボロのようだった。
モノですら大切にされるのに、人が大切にされないのは何故だろう。
この子が今までどんな扱いを受けてきたのか。わたしには想像もできないし、想像するのも怖くて、考えないことにした。
考えたくないのに、胸はどうしようもなく、痛かった。
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