トラックに轢かれた人が異世界に転生できるんだから、タンカーに撥ねられたクトゥルフが異世界転生したって良いじゃない!

九十九 千尋

オープニングは読まれないからこそ伏線は張っておけって邪神が夢の中で言ってたことにする

オープニング


 星辰が揃う時来たれり。今宵、彼は来ませり。


 今一度、海底より太古の都ルルイエは浮上し、大いなる邪神、遥かなる旧支配者クトゥルフがその祭壇より目覚める時が来たのだ!


 海面を割り、形容しがたきは現れる。深くも淡い緑の肌。頭部は軟体動物の蛸を思わせるフォルム。髭のごとく生えた無数の触手は宙にうごめき、背には巨大な蝙蝠のような翼がある。だがこのような描写では彼の身の毛もよだつ威容を表現しきるには、人類の言葉では事足りない。

 そう、彼こそが、遥かな光年をこえて太古の地球に飛来せし、地球の旧支配者クトゥルフ! 彼が目覚めることにより、海面は変動し気候は変化し、彼を見た生き物は正気を失い、音に聞いた者すらも狂気へ落ちる。


 クトゥルフの目覚め……世界は今まさに、滅亡の淵にあるのだ!



 ……だが、彼はとても寝坊助だった。



 数多の視覚を司る器官をその手と思わしき部位でこすりながら、彼は地球の空を見た。ああ、地平線の果てに見える星のなんと奇麗なこと……。

 と思っていたが、彼には一つ気になることがあった。



「(……ふむ? 記憶に間違いがなければ、以前にもこうして目覚めたことがあったような)」


 そう。彼は数十年前に目覚めていたのだ。その時は……確か……


「(そうそう、目覚めた直後に『あんな感じで』すごい勢いで猪突猛進してくる蒸気船が居て、脇腹に突撃を受けたせいで痛くて今一度寝込んだのであったな)」


 ……などと彼は寝ぼけながら思い出した。



 ん? 



 クトゥルフの睥睨へいげいする水面に浮かぶ一艘のタンカー。その赤い船体は、荒れる水面をかき分けて、そして捻るように彼の脇腹へシュートゥッ!!


「(ああっ! ちょ、待っ、ぎゃあああ!!)」




 あ、今更ですが、この作品はギャグ、コメディです。


 目覚めたクトゥルフは今一度脇腹に船を受け、眠りについた。あ、いや、当時は重武装高速船。今度はタンカー。

 ともあれ、地球は救われたのだ。チェーンソーが無くても、船が有れば神は死ぬ! ありがとう船員! ありがとうガイア!

 痛みと共に、クトゥルフは雲母状うんもじょう霧散むさん……いや、爆発四散して、かき消えたのだ……サヨナラ!





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