安堵の再来
なぜこのような状況になったかは理解が追いつかないが、ひとまず会えて安心した。
「タツキ、なぜこんなところに?」
「一週間ある学校の休みを利用して久しぶりに顔を出しにきたところだ。それよりシーナ、苦しいから手を離して起き上がってもらってもいいか?」
今現在俺の上にシーナが馬乗りになってハグをしている状況だ。女性にこんなことをされるのはあちらの世界でもこちらの世界でも初めてだからなんだか恥ずかしかった。
「……。ごめんっ。久しぶりに会えたから嬉しくて」
彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら起き上がった。
「そんなことより村が襲われているの。助けて」
「それならもう大丈夫だ。ほとんどもう倒した。今ノルデンさんとハルタが残りを片付けているところだ」
「シーナよ、大丈夫か」
奥から現れたのは村の村長だった。
「タツキさんではないか。久しぶりじゃのう。どうしてここへ?」
村長にここに辿り着くまでの経緯を説明した。
「また助けていたただくとはかたじけない」
「助けるのは当たり前ですよ。お世話になった方々が危険に晒されているんですから」
「そう言っていただけて嬉しい限りじゃ。今この宿の地下室には数人が隠れておる。わしらも準備をして皆との合流を急ごう」
宿に地下室があったとは全く知らなかった。村人を迎えに地下室へ行くと、最初彼らは怯えた様子でこちらを見たが村長が事情を話してくれるとその場の空気がなごんだ。村人を見渡すとその中に以前助けたサリアの姿があった。近づいて話しかけた。
「久しぶりだな、サリア」
「ひ、久しぶりです」
「そんな怯えなくても大丈夫だ。悪い奴らは俺が倒してきたから安心してくれ」
「本当? もう外に出られるんですか?」
「ああ、これからみんなと合流する」
村長が近づいてきて準備が整ったことを知らせにきた。サリアは村長に手を引かれて、地下室の出口へと向かっていった。地下室に残った人がいないことを確認して俺も後に続いた。
村の入り口へと向かう道沿いにある家々はディアブロによって荒らされ、ところどころの家は崩れていた。美しいサザンカ村の景観が失わさせられたことはいつか復讐してやろうと思う。入り口に到着すると村人たちが数十名集まっていた。そこにはノルデンとハルタも既に集まっていた。
「ハルタ久しぶり!」
「シーナこそ久しぶり。無事でよかった」
「タツキとハルタのおかげだよ」
「さて、全員集まったようだし何があったのか皆に説明しよう」
ノルデンが前に出て今まで村で何が起こっていたのか話し始めた。俺たちが来る前のこともノルデンが話した。話によると朝になり突如現れた彼らは無差別に村の破壊、村人の刺殺を始めたという。それに気付いたノルデンは応戦し始めるが、数が多くて全員を相手しきれなかった。そこに俺たちが現れたということだった。
「今話したようにタツキとハルタが来ていなかったらもっと深刻な事態に陥っていただろう。村からの代表として感謝する」
「ノルデンの言う通りじゃ。皆の者、感謝を忘れるでない。そして、今日亡くなった村の同志を忘れるでないぞ」
ノルデンが話している横には布が覆いかぶせてある獣人の遺体が数人分横たえられていた。彼らのことを救えなかったことは非常に悲しい。もっと早く村に到着していれば助けることができた命だったかもしれない。
ことが落ち着くと村の修復作業が始まり俺たちは積極的に家々の修復を手伝った。四日目にしてようやく村全体の修復が終わった。全員が一致団結して作業を行なったため、思っていた以上に早く終わらせられた。四日間作業に付きっきりだったのでノルデンやシーナと共に宿で食事をまだしていなかった。
無事に作業が終わり宿へ帰宅するとシーナとノルデンが美味しそうな料理をテーブルに並べて俺たちのことを待っていた。
「ご苦労だったな。座れ」
ノルデンに促されテーブルに座った。
「こうして半年前のように皆と一緒に食卓を囲むことができて私はとても嬉しいです」
「同感だ。私はお前たちがてっきりギルドからの任務でくたばってしまうのでわないかと思っていたぞ、ハッハッハ」
「ノルデンさん、俺たち二人はこう見えて半年前とは違って強くなっているんですからね」
「冗談だ。そんな野暮なことでは死なないと分かっていたさ。ここでまた全員が集えたことに感謝して乾杯をしよう」
テーブルを囲んだ四人はコップをそれぞれの手に持ちノルデンの乾杯の音頭に続けるようにして乾杯を唱和した。部屋は実家に帰ったような暖かさで満たされていた。
シーナの手作り料理も前回訪れた時同様に美味だった。料理を食べながらこの半年間に自分達が経験したことや発見、驚きなどをハルタと語った。ノルデンとシーナからは時に笑いが、時に感心する声が発せられた。
「俺たちのユグドラシルでの半年間はこんなところです。ハルタも俺も沢山成長することができました」
「話を聞いたところだとお前たちは相当強くなってそうだな」
「もちろんですよ! ノルデンさんもそのうち俺たちに追いつかれちゃいますよ」
「じゃあ明日久しぶりに稽古でもするか。お前たちに私との間にはまだ大きな差があることを教えてやろう」
「いいですね。ぜひよろしくお願いします」
「そうだ、俺たちガリウドさんから渡せって言われてる手紙とユグドラシルで買った品々を預っているんだった。竜車にあるのでノルデンさん手伝ってもらってもいいですか」
ハルタとノルデンは宿を出て荷台に荷物を取りに行ってしまった。その間に食器の片付けを手伝うことにした。
「手伝わなくたって大丈夫なのに」
「毎回任せっきりでは悪いし、やることもないからいいんだ」
「ありがとう。……」
「……」
食器を洗っている二人の間にはしばらく沈黙が続いた。
「そ、そういえばさカナリアっていうクラスメートの女の子はどういう子なの」
「カナリアはパッと見た感じは頼り甲斐がなさそうだが、根本にはしっかりとした考えを持っていて頼れるような子だ。どうしてそんなことを?」
「なんとなくだよ。ほら、タツキってその子の好きなのかなって思って」
「彼女はただの友達だ。そんな好きなんてっ」
突然シーナが抱きついてきた。胸の中でシーナの吐息を微かに感じる。四日間ここに来てからのシーナの言動は少し変わっていたと思ったが、もしや……。
「ごめんタツキ。なんだかこうしていると落ち着くの」
「え……」
「おい、お前たちどこにいるんだ?」
ノルデンとハルタが帰ってきた。慌てて俺たちは元通りなって食器を洗い始めた。
「食器を洗っていてくれたのか。私はもう寝るから、また明日な」
「はい、明日の稽古楽しみにしています」
ノルデンは自分の部屋へと向かっていった。
「タツキなんか俺に手伝えることあるか?」
「もう終わるから先に部屋に戻っててくれ」
「わかった」
ハルタも自分の部屋へ階段を駆け上がっていく音がした。
食器を洗い終えて片付けが終わるまでその場には気まずい雰囲気が流れた。気まずさに耐えられず無言で部屋に戻ろうとするとシーナが呼び止めてきた。
「さっきのことは忘れて。私がどうかしていただけだから」
「わ、わかった。また明日」
後ろを振り返らずに足早に部屋に戻った。部屋に戻るとハルタは寝ていた。俺も先ほどのことが頭を彷徨っている中で眠りについた。
ーーその頃ユグドラシア大陸某所ーー
カツッ コツッ カツッ コツッ
暗闇に二人の歩く音が響く。二人は黒いローブに身を包み頭からは角を生やしている。
「トローニ貴様何も成果を上げずにここに帰ってくるとは何事だ。あのお・方・が命令された通りではないではないか」
「そうかも知れいないけどぉ、いい情報を手に入れることができたし僕にとっては成果あったと思うけどなぁー」
「なんだそのいい情報とは」
「今回あの村で加護持ちと遭遇したんだよぉ。それも三人も」
「何っ! 加護持ち三人だと。どんな奴らか把握したのか」
「もちろん。これからあのお・方・に会って報告するつもりだよぉ」
「そうか、あのお・方・もさぞかし喜ぶに違いない」
トローニの隣を歩いていた奴が怪しい笑みを浮かべた。
二人はさらに深い暗闇へと消えていった。
ーーサザンカ村ーー
翌朝は雨が降る音で起きた。外を見ると珍しく雨が降っていて、路面が濡れていた。ハルタは熟睡していたから起こさないように部屋を出た。食堂へ行くと椅子にノルデンが座って食事をしていた。いつもいるはずのシーナはいなかった。
「おはよございます。シーナはどこですか」
「おはよう。シーナは熱を出して寝込んでいる。朝食は私がすでに作ってあるから食べろ」
寝込んでいるのは昨日のことがあってだからだろうか。心配だから後で様子を見に行こう。
キッチンには冷えた朝食が置かれていた。この世界に電子レンジがあったならばどれほど便利なことか。朝食を食べながらノルデンに今日は稽古が出来なさそうなことを確認して、その代わりと言ってはなんだがノルデンの部屋で加護についての話を聞けるようにお願いした。彼女は了承した。
部屋に戻ってハルタを叩き起こすと、これから加護の話を聞きにいく旨を話した。加護のことを知って使いこなせるようになりたいそういう思いを馳せながら二人でノルデンの部屋へと向かった。
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