第15話 パン作りとアップリケでスマイル

Side:ショウセイ


 孤児院に何をあげたら喜ぶだろうか。

 安いので何かないかな。


 孤児院の中を見て回ると色んな物が足りてないのが分かる。

 まず着る物だろう。

 身の回りの道具なんかも足りてない。

 鍋を見ると穴が開いたのを塞いだ後が分かる。

 幼稚園児ぐらいの子に足をつんつんされる。


「何かな?」

「腹減った」


 そうだ。

 何が無くとも食べる物だ。

 お菓子は喜ばれたが、腹は大して膨れない。


 安い食材という事で小麦粉を出してみた。

 1キロで198円だ。

 このくらいなら10キロは余裕で買える。


 孤児らに笑顔はない。

 小麦粉はすぐに食べられないからな。


「みんな、パンを作るぞ」


 ドライイーストを出して、パンを作り始めた。

 粘土遊びみたいな事が楽しいのか、みんな笑顔になる。


 スマイル100円を沢山いただきました。

 発酵を待つ間、穴の開いた衣服に、アップリケというかアイロンで付けられるシールを貼る事にした。


 値段は100円ショップで売っているので安い。


「これ俺に付けて」

「よし、メグがアイロンで付けてくれるから順番に並べ」

「はーい」


 とにかく色んな種類のアップリケを付けまくった。

 続々とスマイル100円が入って来る。


「継ぎはぎも、こうすれば可愛いわね。こんなの付けている子供は居ないから、自慢できるわ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。さて、そろそろパンを焼こうか」

「ええ」


 オーブンでパンを焼き始めた。

 俺は腕時計を見た。


「これなあに?」


 メグが腕時計を覗き込む。

 俺は見易いように袖をまくってやった。


「時計だよ」

「あの塔の上についているの?」

「そうだよ。仕組み的には大体一緒だ」

「こんな小さいのは、見た事ないわ」

「懐中時計はあるはずなんだが、たぶん貴重品なんだろう」


 時計は商品として役に立たないな。

 目立ちすぎる。


 話をしていたら、パンが焼き上がった。

 焼き上がったが見事に潰れている。

 捏ねが足りなかったか、発酵がたりなかったか。

 それとも水加減か。

 とにかく失敗だ。


「潰れているけど、美味しいよ」

「美味しい。何でだろ」

「いつも食べているパンより美味しい」


 孤児たちは笑顔で出来を称賛してる。

 小麦粉の品質が良いのと、焼き立てなので美味しく感じるんだな。

 それと自分で作ったという事が更に美味しくしてるんじゃないかな。


 スマイル100円が大量に入った。

 何かを作るのは失敗しても楽しい。

 結果だけが全てじゃない。


Side:メグ


 ショウセイがパン作りを始めた。

 美味しいのが出来るかな。

 きっと美味しいのができるはず。

 みんな頑張っているんだから。


「アイロンはあるか?」

「ええ、火を入れて使う鉄製のがあるわ」

「なら、大丈夫だ」


 今度は何を始めるんだろう。

 ショウセイといるとワクワクが止まらない。

 何か刺繍したような布切れを沢山出してきた。


 アイロンを当てるとくっ付くのね。

 へぇ、考えられているわね。


 継ぎのあたった服がみるみる間に綺麗な物に生まれ変わる。

 まるで魔法ね。


 これだから、ショウセイのやる事は目が離せない。

 今日だけでショウセイはいくら使ったかな。

 本当にお金持ちね。

 まるで尽きない財布を持っているみたい。


 ショウセイがチラチラと道具を気にしてる。

 何かと聞いたら時計だって。

 あの塔の上に付いているのが、こんなに小さくなるんだ。


 時計は物凄く高いと思う。

 こんな物を持っているなんて、ショウセイは不思議な人。


 懐中時計という物があるんだって、ギルドマスターなら持っているかな。

 今度、会ったら聞いてみよう。


 パンを焼き始める。

 出来上がりがどうなるか想像するのが楽しい。

 ふっくら美味しくなーれ。

 オーブンから取り出すと、ほとんどのパンは潰れていた。

 がっかりだ。

 せっかくショウセイに小麦粉を持って来てもらったのに。


 失敗したパンを食べる。

 美味しい。

 形は悪いけど美味しい。


 きっとみんな笑顔で作ったから美味しいのね。

 次はもっと笑顔で失敗無く作れたらいいわね。


 ショウセイもパンを食べて笑っている。

 ショウセイが笑顔が糧で生きていると言っていたのが分かる気がするわ。

 こういう時間が長く続けばいいのに。

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