第10話 味噌でスマイル

Side:ショウセイ

 俺の為に村のみんなが歓迎会を開いてくれるらしい。


「ショウセイ、紹介しておく。こちら村長のアンドリューだ」


 シンタから村長を紹介された。


「巡礼者のショウセイです。今はこの村に骨を埋めてもいいかなと思ってる」

「そうかい。なら人別帳に記載しておくよ。村に人が増えるのは嬉しいよ。最近の若い者は都市にみんな出て行ってしまう」

「なんか産業でも起こせれば、良いね」


「学のある人は違うね。考えてみるよ」


「大鍋でスープを作るぞ。みんな材料は持ってきたか」

「おう」


 スープを作るのか。

 俺もなんか出さないと不味いな。

 野菜を持って来た人が大半だ。

 香辛料は不味いと言われたから、みそ味のスープはどうだ。


「味付けは任せてくれ。俺の故郷の調味料を使う」

「おう、任せたぞ」


 野菜が大鍋に投入され、申し訳程度に肉が入る。

 煮たったので、出汁入り味噌を入れる。


 味噌のなんとも言えない匂いが立ち込めた。

 村人は持って来た器にスープを盛った。


 俺も食べてみた。

 まんま味噌汁だな。

 異世界に来て初めて食べる味噌汁だ。


「美味しい。暖まる味だね」

「どこか懐かしい味だ」


 味噌汁は好評だ。

 外国人には合わない人がいると聞いていたが、異世界の人間にはそうでもないようだ。


 スマイル100円が凄い勢いで入っていく。

 もしかして出汁をとる文化がないのかな。

 それで美味しく感じるのかも。


 村長のアンドリューが寄って来た。


「このミソという調味料なんとも言えない旨味がありますな」

「実は豆を発酵したのに、海藻と魚の出汁が入っているんだ」

「ほう、この村でも作れるのかな?」


 麹は買えるスーパーなんかでも売っているからな。

 殺菌が大事だと聞いた事がある。

 消毒用アルコールに良いのがあった。

 口にしても安全アルコールだ。

 こういうのを使えば良いな。


「試行錯誤すれば出来るかと」

「そうかい、嬉しいねぇ。産業が出来れば若い者も帰って来る」

「そうなれば、いいですね」


 味噌作りをやり始めるのか、簡単には上手くいかないだろうな。

 でも、希望を持つのは良い事だ。


Side:アンドリュー


 ショウセイという男には驚かせられた。

 なんのへんてつもないスープが高級なスープになった。


 なんと言うのか深みがある。

 いっぺんで虜になった。

 これを作る事ができれば。


 聞けば豆から作るらしい。

 豆はこの村でも作っている。


 よし、作るぞ。

 まずは小規模からという事で、小さい樽で始める。


 分量のレシピはショウセイがどこかから読めない本を出してきた。

 何語で書かれているのだろう?

 まあいい、たぶん知らない程遠くの国なんだと思う。


 豆を煮て潰して、コウジというのと塩を混ぜる。

 後は寝かしておくだけなのだとか。

 カビが生えたりすると失敗らしい。


 結果は半年後。

 今から楽しみだ。


 魔法で飛ばされて来たと聞いた。

 ショウセイはもっと色々な知識を知っているはずだ。


「半年は長いな」

「ええ、酒造りもそうだけど、長い」


「豆から作る他の物はないのか?」

「すぐに出来るのなら納豆とか」


 出されたナットウという物を見る。

 まず匂いが臭い。

 これはたまらん。

 腐っているんじゃないか。

 木の二本の棒でショウセイがかき混ぜる。

 うわ、糸を引いているじゃないか。

 これは駄目だ。


「食うと美味いんだけどね」


 ショウセイが平気な顔でナットウを食う。

 食えるのは分かったが、これは特産品にはならないな。

 やっぱり楽な道は駄目だ。

 すぐに真似される可能性もある。

 地道に行くとするか。

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