第6話 シチュウのルゥでスマイル

Side:ショウセイ


 子供達の遊びに付き合っていたら、夕飯の準備をする時間になってしまった。

 子供達は手伝いをするそうで各家に帰って行く。


 俺もクロエちゃんと家路に着いた。


「ただいまー」

「お邪魔します」


「おかえりなさい。今日の夕ご飯は何にしましょうか」


 今ちょっと思いついた。

 こんなのはどうだろう。


「シチューのルゥがあるけど使ってみないか」

「それって美味しいの?」


 クロエちゃんは食べた事のない料理に興味がある様子。


「それなりにはな」

「悪いわ」

「安いから。銅貨10枚ぐらいの値段かな」


「お母さん、ルゥってのを食べてみたい」

「じゃ料理しますか」

「ほんとごめんなさいね」

「いいんだよ。みんなの喜ぶ顔が見たいだけさ」


 まずは芋を剥く。

 ピーラーがあるのでクロエちゃんが率先して剥いてくれた。

 玉ねぎに似た野菜をジェシーさんが切る。


 俺は人参に似た野菜の皮を剥き、細かく切った。


「ホワイトシチューだから牛乳が欲しいな。肉は入れなくても良いだろう」

「牛乳はないけど、ヤギの乳ならあるわ」

「まあいいか」


 油を鍋に引いて野菜を炒める。

 そして水とヤギの乳を入れて煮込む。

 火が通ったらルゥを投入。

 美味しそうな匂いが立ち込めた。


 クロエちゃんは味見したくてうずうずしているようだ。


「小皿に取ってあげるわ」


 ジェシーさんがお玉ですくって小皿によそった。

 クロエちゃんは小皿からシチューを飲んだ。


「あつっ、でも美味しい。こんなに美味しいのは初めて」


 スマイル100円頂きました。


「私も食べてみようかしら」


 ジェシーさんも味見した。


「あらほんと美味しいわ。香辛料が効いているわね。これで銅貨10枚は嘘でしょ」


 でもジェシーさんの表情が硬い。


「嫌いな味だった?」

「いいえ、思ったんだけど。あなた使徒よね」


 分からない言葉が出て来た。


「使徒って何?」

「勇者! ショウセイは勇者!」


 クロエちゃんが興奮している。


「神様に呼ばれた人をそういうのよ」

「呼ばれた記憶は無いんだが」

「飛ばされて来た時に声を聞かなかった?」


 ああ、あれか。

 スマイル100円下さいと言ったら、よかろうと返事があったあれか。


「よかろうとだけ言われた」

「おかしいわね。先代の使徒は神様に会って好きなスキルを選べと言われたそうよ」

「ちくしょう。神様の奴、差別だ。俺にも選ばせてくれよ。ちなみに先代は何のスキルを貰ったんだ」


「クロエ、知ってるよ。聖剣のスキルを貰った」

「聖剣とは強そうだな」

「どんなモンスターも真っ二つなんだって。でも正義の心がないと使えないんだって」


「聖剣のエネルギーは正義の心か。難しそうだな」

「そうね。盗賊退治の時に、一緒に行った兵の一人が疑問を覚えて、聖剣が力を失ったのは有名な話よ」


「ちなみに何でジェシーさんは俺が使徒だと思った?」

「飛ばされたと言ったわよね。それと常識を知らない所ね。勇者様はカレーのルゥが欲しいが口癖だったらしいわよ。これもルゥよね」

「そうだな」


「それに首に着けた紐よ。ネクタイというらしいけど勇者様が現れた時に身に着けていた物よ。同じ物は勇者様の不敬に当たるので、誰も真似しないわ。最初は勇者教の狂信者かと思ったけど、勇者教は剣を手放さないから」

「ネクタイもか。俺が使徒だってのは秘密にしておいてくれるか」

「良いわよ」

「クロエも黙っている」


 どうやら俺は崇められる立場らしい。

 だがそんなのは嫌だ。

 それにモンスター退治なんて真っ平御免こうむる。


Side:ジェシー


 やっぱりショウセイはおかしい。

 まず気づいたのはネクタイ。

 これは勇者様が降臨した時に身に着けていた物で、不敬に当たるので誰も真似しない。

 勇者教の狂信者かとも思ったけど、勇者教は剣を手放さないわ。

 剣が恋人って言うくらいだから。


 確定したのはシチューのルゥって言葉。

 ルゥなんて物はない。

 あるとすれば勇者様の口癖のカレーのルゥだけだわ。

 勇者様はそれが手に入るなら金貨を払っても惜しくないと言ったそうだから。


「ショウセイさん、ルゥはまだ手に入りますか? あら、ルゥだなんて言っちゃいけないわね。シチュウの素は手に入りますか?」

「いくらでも手に入るよ」


 シチュウの素を出してもらって、近所におすそ分けする事にした。

 配って歩いて帰って30分後。


「うおっ、1万円ぐらい手に入った」


 勇者様は正義の心が力の源だったけど、ショウセイは笑顔が力の源なのね。

 どちらかと言うと私はショウセイのスキルの方が好きだわ。


「夫の古着で悪いんだけど、一組用意したわ」

「おー、ありがと。これで俺も現地人だな」

「この村では良いけれど、スキルをあんまり見せびらかしたりしない事ね」

「気をつけるよ」

「さあ、夕ご飯にしましょう」


「創造神よ、日々の糧を感謝します」


 夫が食事の御祈りをする。


「「「感謝します」」」


 シチュウは美味しく、笑顔溢れる食卓になった。


「ばんばん、お金が入って来る。怖いぐらいだ」

「この美味しいシチュウを食べたら、みんな笑顔になるわよ」

「クロエも笑顔」

「がはははっ、みんな笑顔だ」


「まいどあり」

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