スマイル100円で異世界を生きていく~スマイル100円換算で日本の物を買って、異世界人に使ってもらう。満足したみんなの笑顔が金を生む。この幸せサイクルが俺の生きる糧~

喰寝丸太

第1話 薪割りでスマイル

「罰ゲーム!」

「罰ゲームぅ!」

「男ならやってみろ」


 ここは某ファーストフード店。

 俺達4人は会社が終わり、飲みに行った帰りだ。

 飲んでいた時に山手線ゲームをした。

 山手線ゲームは合コンなどでよくある場を盛り上げるタイプのゲームだ。


 ゲームに関してはまあいい。

 問題は罰ゲームの対象が俺になってしまったという事だ。

 くそう、恥ずかしいがやってやる。

 死ぬような罰ゲームじゃないしな。


「スマイル100円下さい」


 俺がそう言った時、けたたましいクラクションの音と共に、車らしき物が店に飛び込んできた。

 俺は体全体に衝撃を受けて、『よかろう』という承諾の声を聞いてから気を失った。


 次に気がついたのは、つんつんとぽっぺを何かで突かれる感触。


「誰だよ」

「クロエだよ」


 幼い女の子の声に目を開けると、レンガ造りの家が立ち並ぶ村だった。

 俺はたしか事故にあったんじゃ。

 何だよ。

 何が起こった。

 起き上がって服の汚れを落とす。


 俺の服装はスーツで持っていた鞄はない。

 あるのは財布と免許証だけだ。

 財布には現金とカードが数枚。


 見渡して気づいた。

 村にはあるべき物がない。

 それは電柱だ。

 今の状況を考えるにタイムスリップか。

 クレジットカードやキャッシュカードも役に立ちそうにない。


 クロエちゃんの髪は栗色で目は緑。

 歳は6歳くらいだろう。

 外国確定だが、言葉が通じているのは何でだ。


「ここはどこだ?」

「バドラ村だよ。お兄ちゃんは行き倒れ?」


 何があったかの把握は追々でいいだろう。

 この状況で生き残る事が最優先だ。

 まず、この女の子の問いにどう答えよう。

 田舎を題材にしたテレビ番組を思い出した。

 昔は巡礼がよく通っていたらしい。

 それで、行き倒れなんてのもあったが、親切に食事の世話なんかしてやったと番組で言っていた。


「巡礼だよ」

「巡礼? 分かんない? 聞いてくる」


「ちょっと、待って。俺も行く」

「じゃ行こう」


 女の子に手を引かれ、ある家の前まで連れて来られた。


「お母さん! 巡礼だって!」


 しばらくして扉が開き、俺と同じぐらいの年齢の女性が現れた。

 俺が25歳だから、二十代半ばぐらいというところだろう。


「まあ、巡礼者なんて珍しい。聖地までの旅ですか?」


 ここは話を合わせておいた方がいいだろう。


「そうなんだ」


 さてここからが勝負だ。


「轟音と共に飛ばされたらこの村だった。どうやら記憶が怪しい。何なんだろうな」

「たぶん、魔法事故に巻き込まれたんじゃないかしら」


 魔法、魔法があるのか。

 ここは違う世界か。

 これは気を引き締めないと。


「魔法か。そうみたいだな。記憶を失って、やらなくちゃいけないのはなんだろう」

「巡礼者だと戸籍は要らないから、魔力の有無を調べる事ね。ちょっと待って」


 魔力か。

 俺にあるんだろうか。

 魔法は使ってみたいな。


 女性は家を出ると早足でどこかに出かけた。


「クロエちゃんは魔力があるのかい」

「ないよ」


 ないのか。

 あと聞いておくことは。


「お金はどういうのを使っているのかな」

「銅貨」


「こういうのかい」


 俺は財布から10円玉を出して見せた。


「大きさが違う」


 そうだよな現地通貨と同じな訳ないよな。

 お金は使えない物として考えた方がいいだろう。


 クロエちゃんと話をしていたら、女性が帰ってきた。


「これに触って」


 俺は水晶玉に触った。


 魔力ゼロ、スキル『スマイル100円』との声が頭に響く。

 おお不思議道具。

 鑑定の水晶というところだろう。

 異世界にいるんだと確信が持てた。

 魔力は無かったか。

 クロエちゃんもないみたいだし、別に良いだろう。


「スマイル100円って何だ?」

『感謝の笑顔を貰うと100円が貯まる。それで日本の物が通販できる』


 説明が頭の中に響いた。

 なるほど説明は分かった。


 さて俺はどうするべきだろう。

 地球に帰りたいが今すぐは無理そうだ。

 大目的は地球に帰還だな。

 小目的は生き残る事。


「どうかしたのかい」

「どうやらスキルがあるみたいなんだ」

「それはめでたいね。村人だったら、お祭り騒ぎになっているところだよ」


「スキルを持っている人は珍しいのかな」

「千人に一人さね」


 それほど珍しい物でもなさそうだ。

 そうだ、自己紹介しないと。


「俺はショウセイ。もし差支えなければ、親切にしてもらったお礼に、仕事を手伝いたい」

「私はジェシーさ。仕事なんていいよ。巡礼者は助ける決まりだからね」

「そう言わずに」

「そうかい。じゃ、薪割りをやってもらいましょうか」


 俺はクロエちゃんに案内されて、家の裏にある切り株の前に立った。

 錆が少しある年季の入った斧が置いてある。

 薪は納屋にあるようだ。

 クロエちゃんが運んできてくれた。


 薪を切り株の上に立てて斧を振り下ろした。

 薪は割れずに斧が刺さり、コテンと横に斧が倒れた。

 餅つきで同じようになって、お辞儀してらぁとからかわれた事があったな。


「私とおんなじ」

「力不足って事か」


 腰をいれて、餅つきの要領で。

 薪は割れた。


 柄の端っこの方を持つと威力が上がるが安定しない。

 短く持つと安定はするが、威力が出ない。

 まあ、ちょうどいい所を模索すれば良いだけだ。


 薪割りは二時間ほどで終わった。

 握力がもうない。

 手が震える。

 これでもう今日は他の仕事が出来る気がしない。

 クロエちゃんがジェシーさんを呼んできてくれた。


「ご苦労様。随分と時間が掛かったね」

「ご苦労さま。えへへ」

「なにぶん初めてなんで」


 ジェシーさんとクロエちゃんからありがとうの笑顔を貰いました。

 200円が貯まったようだ。

 さて、初めての買い物はなんにしよう。

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