第148話 一線、そしてウィンとのこれから


 ウィンの身体が、すべて──。

 ウィンもすぐに気付いたのか顔を真っ赤にして、胸を押さえる。

 もう、遅いけど……。


 じっと見つめ合う俺とウィン。


「いいですよ、私を──いただいても」


 その言葉に、思考が停止する。決して冗談では、ないだろう。

 仮に今、俺がウィンに襲い掛かればウィンは全く抵抗せず、一線を越えてしまうだろう。


 でも──。

 仮に超えるとしても、欲望にあらがえずこのままというのはしたくない。


「ちょっとだけ、ちょっとだけ待ってほしい」


 そう言って、ウィンの肩を掴んで引き離す。少しだけ、心の準備が欲しい。


「わかり、ました」


 真剣に、言っているのだろう。一時の感情なんかじゃない。

 ウィンなりにずっと考えて、出した答えなのだろう。


 それなら、今までのように断るのは逆に失礼だ。

 俺だって、ウィンと一緒にずっと生活していた。このまま今と一緒──とはいかないだろう。


 何時かは、結ばれなければならない。そうしないと、ウィンに対して失礼だ。

 ウィンだって、ずっと戦ってきて、ずっと尽くしてくれた。


 それに、答える必要がある。

 そして、こうして旅行して2人。一緒に寝る時間。


 今なら、話しても構わないだろう。

 それから、就寝の時間。明かりを消して、2人で同じベッドに横になる。


 タイミングは、ここしかない。ごくりと息を飲んで、ウィンに話しかけた。


「ウィン──」


「なんで、しょうか」


「その……今までずっと生きててさ、ウィンはずっと俺に尽くしてくれた」」


「そ、そんな……」


 謙遜するウィン。ウィンなら、そう言葉を返してくるだろう。


「そんなことないよ。だからさ──結婚したいと思う」


 そう、プロポーズだ。いつかしようとは考えていた。

 そして、ここがタイミングだった。


 ウィンは、目を大きく開けて俺をしばらくじっと見た。

 ほんのりと顔を赤くして──。


 ウィンなりに考えているのだろう。そして、しばらく時間がたってから、ウィンは言葉を返し始めた。


「ガルド様──私も、ずっと考えていました。こんな私を、助けてくれて、尽くしてくれて──大切にしてくれて」


「放っておけなかったからね」


「だから、考えてました。ガルド様と一緒になれたらいいなって。だから──わかりました、こんな私でよかったら、ぜひお願いします」


 ウィンは、まるで女神のように優しく微笑んだ。

 とても嬉しそうで、安心しきっている表情。


 それなら、こっちが返す言葉は──一つしかない。


「ありがとう。これからも、よろしくね」


 コクリと頷いて、そう答えた。

 ウィンがこっちに寄ってきて、ぎゅっと手を握ってくる。


「ありがとうございます。こんな私ですが、よろしくお願いします」


「ありがとう、こっちこそ──よろしくね」


 意外とあっさりと決まってしまった。でも、ここに至るまでの道のりは決してそんなんじゃない。


 ウィンのことで、ずっと悩んできたこともあった。どうすれば喜んでくれるのか──とか、どうすれば気持ちが伝わるかな──とか。


 そうして、俺もウィンもずっと過ごしてきた。


 だから、さっきのやり取りは……答え合わせのような、確認のような、そんな感じの行為に近い。


「じゃあ、これからも──よろしくね」


「はい。私の方こそ、よろしくお願いします」


 ウィンは、再びにこっと笑って頷いた。

 そして、俺の方に身体を寄せてくる。


 上目づかいで、誘惑するような目つき。キャミソールからは、ウィンの特徴である大きな乳房の谷間がまるで俺を誘惑しようとしているみたいだ。


「な、なに?」


 戸惑いながら質問すると、ウィンはごくりと息を飲んでからゆっくりと口を開く。


「あの……結婚するって決めたので……」


「う、うん」


「私、ガルド様に──ささげたい、です」


 何をささげるかは、聞かなくても理解できた。以前なら、完全に払いのけていただろう。

 けれど、ウィンがここまで本気で、覚悟を決めているのだ。


 ウィンの気持ちを受け止めるという意味でも、返す言葉はすでに気なっていた。


「ウィンがいいなら、いいよ」


 そうだ、俺たちは結ばれることになった。

 さっきの言葉通り、ウィンはすでに覚悟を決めている。ウィンは一時の感情で、体を差し出す女の子じゃない。


 そこまで覚悟を決めているなら、それを受け止めなければ失礼だ。



「よろしくお願いします」


 そして、俺はウィンに覆いかぶさった。

 その後、俺もウィンもぎゅっと抱き合った後、服を脱ぐ。ウィンのキャミソールを脱がして──。


「はい、わかりました」


 そして、俺たちは一線を越えた。


 一線を越えてしまった。




 ウィン視点。


 ふぅ──。


 ついに、結婚するんだ。

 それと、一線を越えてしまった。


 ガルド様──すごかった。


 最初は、何とかガルド様に尽くして──気持ちよくなってもらおうと思った。

 でも、いざ一線を越えてみると全く違う結果となった。


 ガルド様との行為に、私はただ喘ぎ声を出すしかできなかった。今でも、思い出すだけでドクンドクンって、心臓が高鳴ってしまう。


 入った時は、慣れない刺激に戸惑うしかなかった。


 自分の中にガルド様の身体の一部が挿入される、「所有物になる感覚」。異物が入って、全身をかき回されるような感覚。


 気持ちよさが体の中から、波のように全身に広がっていって、最後に視界が全部真っ白になるくらいの感覚。

 最後は、ガルド様の温もりを全身に感じながら、ただ喘ぎ声を出すだけだった。


 人生で初めてのショックに、しばらくは放心状態。そんな私を、ガルド様は優しく、包み込むように抱きしめてくれた。


 今までの人生で、一番幸せな時間──。



 そして、抱きしめられながらじっと天井を見る。

 いよいよ結ばれるんだ。


 こんな私で、ガルド様を幸せにできるのかな?


 不安に思ってしまう。でも、なんとなくだけどわかる。

 ガルド様となら、幸せになれるって。ガルド様となら、どんなことも乗り越えられるって心の底から思える。


 これから、夫婦としての生活。とっても楽しみだな……。




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