第144話 雪国への旅行
雪が積もった針葉樹の森。そこを抜けると断崖絶壁で海に面する細道を進み始める。
しばらく歩いていくと高さ数百メートルから見える複雑な地形の入り江海岸の景色が現れた。
そこから見える海や木々は、今まで見たことがないほど雄大で綺麗なものだと感じた。
何百メートルという崖に、そこから見える広大な海。
確かこれは聞いた事がある。長い時間解けずに積もった雪が氷となり、地面を侵食し、そのまま気候変動で氷が解け、出来た地形。
フィヨルドというやつだ。
生まれて初めて見た。壮大な絶景に感激する。
ウィンも、絶景ともいえる景色に目を輝かせていた。
「す、すごい……です」
あの戦いの後、俺たちはウィンと二人で話し合った。
これから、俺たちはどうしようかと。
そして、煮詰まった中俺は決断した。
一度、旅行に行ってみようと2人っきりで旅行に行って、その中でこれから俺たちが、どうすべきか決めようと──。
「わかり、ました」
「じゃあ、ウィンは行ってみたいところとかある?」
ウィンにどこに行きたいか、何か見てみたいものはあるかと聞いてみた。聞いてみて、その中で2人になっていろいろ考えられる場所を考えようとしたのだ。
そして、両手のこぶしを握って興味津々そうな態度でこう答えたのだ。
「雪──っていうのを見てみたいです」
「見たこと、なかったの?」
「白くて、冷たい。寒い国で見られるってうわさでは聞きました。でも、見たことはないです。だから、見てみたいんです」
俺は、特にここに行きたいという場所はない。以前までのクエストの連続で、いろいろなところへ行ったからだ。
ということで、フィアネさんや知人の人に、雪が降っている場所で、観光に向いている場所があるかないか聞いてみた。
そして、フィアネさんや一部の人がおすすめしていたこの「ムルマンスク王国」という場所へ行くことを決めたのだ。一応、国王様にも相談してみた。すると、とある条件と引き換えに資金を援助するということになった。
彼も、国王という身分上、俺を使って他国との関係を構築しようとしているのだろう。
旅行費用もバカにならないので、こくりと承諾したわけだが。
そんなことで馬車で王都を出発して数日。
北へ行くごとに、空気はどんどんと寒くなる。
広大な草原地帯が広がるステップ気候の地帯をしばらく潜り抜け、大きな山を越えると、雪国へと景色が変貌。
吐く息が、真っ白。
「おおっ、すごいです」
ウィンは、それに驚くと同時に、かじかんでいた手をふーふーしている。
やはり、寒いのだろう。
そして、海沿いに出ると見えたのがフィヨルドの光景だ。
馬を借りるのにそれなりにお金はかかってしまったけど、ここに来てよかったって感じる。
そんな光景をしばらく眺めていると、再び内陸部へ。
時折、鹿みたいな野生動物と遭遇しながらうっそうとした針葉樹のジャングルを抜けると、王都であるサポリニャニに到着。
寒さから身を遠ざけるために作られた、石造りの家屋。
膝くらいまで積もっている雪。
故郷では考えられないくらいの寒さに、身が震える。街を歩く人は、見な分厚い防寒着を着ていて俺たちのことをっ物珍しそうな目で見ている。
雪道を歩きながら、ウィンの様子に気付いて声をかける。
「ウィン、寒くない?」
「だ、大丈夫です」
そう言って、手袋に包まれた両手をほふほふして息を吐く。
防寒着を万全に着ているとはいえ、体がかじかむくらい寒い。
当然だ。ここは、王都よりはるか北にある場所だ。
「もう少しでホテルにつくから、大丈夫?」
「はい」
そして、あらかじめ手配していたホテルにチェックイン。荷物を置いて、身軽になってから再び街を歩く。
教会に近いつくりの家屋が立ち並ぶエリアへ。
話によると、信仰深い信者の人が、神様への信仰心を示すために、あえてこういった造りにしているんだとか。
ウィンは、物珍しい光景に興味津々そうに家屋に視線を向ける。
色々、かわいらしい小物類が置いてある雑貨屋さん。なんでも、この地で何百年も伝統の工芸品を取り扱っているらしい。
扉を開けると、チリンチリンと音がする。
「いらっしゃい」
店の中には、かわいらしく作られたアクセサリーなどの小道具に、香水。そしてみたことがない人形などが置かれていた。
興味津々そうに店の中を観察していると、店主のおじさんが話しかけてきた。
「あんたたち、よそから来たのかい?」
「はい、物珍しい工芸品があると聞いて、来てみました」
「それなら、これなんかどうだい?」
おじさんは、商品の置かれている棚から一つの人形を取り出してくる。
赤い服を着た、丸い女の子の人形。
胴体の部分で上下に分割できるらしい。そして、実際に上の部分をとってみると
一回り小さい人形が入っていたのだ。青を基調とした、男の子の人形。さらにその人形も上下に分割出来てそこには赤ちゃん、その中にはちっちゃい猫の人形。
これが、この地で作られている伝統的な人形らしい。
「マトリョーシカ人形──といってな、この街の伝統品なんじゃ」
ウィンは、初めて見た光景に目を輝かせながらマトリョーシカを見ている。
欲しい──と言わんばかりだ。
「買ってみる?」
「はい。記念に、いいと思います」
ということで俺たちはそのマトリョーシカを購入。それなりの値段だったけど、初めて見るものだし、ここに来た記念にちょうどいいだろう。
それから、いろいろな店へと足を運ぶ。
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