第129話 ガルドとニナ

「ニナちゃんはどうするの? ニナちゃんは本気よ?」


「本気──仕事に一生懸命本気になってるってことですか?」


 ここでニナの名前が出てくる。大きく息を吐いて、額に手を当てる。何だろう、いまいち話がかみ合わないような……。


 ニナについて、何が言いたいのだろうか──。

 考えこんでいると、フィアネさんはふっと笑みを浮かべて言葉を返してきた。


「まあ、ガルド君だものねぇ。あなた、そういう所よ──」


「そういう所? 俺、またニナになにかしちゃったんですか?」


 そういう所? また俺、無意識にニナに嫌われるようなことをしてしまってるのだろうか?


 う~~ん、やはり女心というのはよくわからない。

 頭をひねって考え込んでいると。その言葉にフィアネさんはまた大きく息を吐いた。


「鈍感すぎ。わざとやってるんじゃないかってるんじゃないかって疑っちゃうくらいよ」


「どういうことですか??」

 フィアネさんは頭を軽く左に傾けて、衝撃的な言葉を発した。


「ニナちゃん、あなたのこと好きなの。わかってた??」


「え~~~~~~っっ!」


 その言葉に大声をあげて驚く。まさか──確かに後輩として大切にしてはいたけど、そんなこと初めて知った。


 唖然として、言葉が出ない。本当なのか? いつも出れたり、ぷくっと顔を膨らませたりしている印象があったけど。


「ニナの気持ちをわかってなかったわね。私からすれば、すぐに理解していたわ。ガルド君のことを話しているときは、ほほがにやけていて、とっても嬉しそう。顔に書いてあるくらいよ。あれであなたがわからないっていう方が、ずっと不思議なくらいよ。それで、呼び出して二人っきりになった時に聞いてみたのよ。そしたら顔を赤くして、コクリと頷いたわ」


「俺は、わかりませんでした……」


「あなた、罪作りな人ね」


 フィアネさんが、大きく息を吐いてあきれ果てる。罪作りか──確かにそうかもしれない。

 本当にそうなら、俺はニナを弄んでいたことになる。


 何で気が付かなかったんだろう。


 まずいことをしてしまった。なんということだ──。


 ニナに感情に、全く気付いてあげられなかった。なんというか、どう説明すればいいんだろう。


「この前ね、試しにガルド君のこと話してみたのよ、ニナにね」


「はい」


「もう顔は真っ赤、にやにやと笑いを浮かべてもう顔に書いてあるって感じだったわ」


「確かに、ニナってそういう時ありましたね」


 鼻の頭をぽりぽりとかきながら、ニナの今までの行動や素振りを思い出す。

 確かに、そうだ。


 俺が話しかけると、あわあわしたり──顔が真っ赤になったり。


 あれは、そういったことだったのか。


「ニナちゃんとね、話したのよ──。あなたのこと、どう思っているのか」


 そして、フィアネさんはニナと話した時のことを話し始める。








 ニナ視点。


 昼食の時間、いきなりフィアネさんに呼び出された。


 賑やかな食堂の、すみっこの席。


 フィッシュアンドチップスとサラダを頼んだ私と、サラダだけしか頼んでいないのか、それだけが、フィアネさんの机に置いてあった。


 フィアネさんは鼻から息を吐いて、サラダを一口ほおばった。

 もぐもぐと咀嚼を続け、飲み込むとコクリと首を傾ける。


「おいしい? フィッシュアンドチップス」


「まあ、食べたことないので頼んでみました。まあまあです」


 いつも、落ち着いていて大人びた姿をしているお姉さんという感じだ。

 それでいて不思議な雰囲気で、何を考えているかわからない。


 何で呼び出したんだろ? まさか、戦力外通告?? ええい! ストレートに聞いてやる!


「んで、なんでわざわざ呼び出したんですか?」



「何って、ニナちゃん最近とっても成長してるわね。最初はドジが多くて戦いに行かせるのが不安だったのに──いきなり急成長して、今じゃうちのギルドでもトップクラスの実力者」


「それは、ありがとうございます」


 疑いをかけたまま、コクリと頷く。確かにそういうことはよく言われる。「最近ニナちゃんすごい」とか──。


 でも、そんな言葉を伝えるためだけに呼び出したのかしら?



「私の勘だけど、モチベーションが変わったかと思うのよね。目つきが違うもん。以前はぽわわんとした印象だったけど、目つきがキリッとして、目標に向けて一生懸命って感じ。そして、日頃のとある人物に対する態度」


「言いたいことがあったら、はっきりとどうぞ?」


 そう言って、フィッシュアンドチップスとサラダをほおばる。

 そして、サラダを咀嚼してフィアネさんは言い放った。


「ガルド君のことよ。好きなんでしょ?」


 その言葉に、思わずピクリとフォークを止めてしまう。でもまあ、普段の態度を見ればバレバレか……どこかの鈍感王子様とは違って。



 ここまできっぱり言い放つくらいだ。すでに確信してるんだろう。だったら否定する理由なんてない。


 不機嫌そうに、本心を答える。


「そうです。何か悪いんですか?」


「否定しないのね」


 どうせ否定しても無駄だ。私の本心は、変わらないのだから──。


「そう、でも──それがかなうかどうか──わかるでしょう?」


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