第109話 雨、そして相合傘

 

 手続きが終わった後、賞金をもらった。今回は、2連戦でハードな戦いだけあってかなりの金額になる。それなりに、遊べる金額だ。


 普段よりも、3倍以上与えられた金貨をまじまじと見ながら考える。

 たまには、ウィンに何かしてあげてもいいかもしれない。

 

 旅行なんかいいかな、見知らぬ地を訪れたり──考えてみよう。

 なんにせよ、ウィンと一緒にどこか遠いところに行ってみようとは思う。


 ぼんやりと、そんなことを考えているとフィアネさんがやってきた。

 手続きが終わったとのことだ。


 これから、この国のためにどう動いていけばいいものか──。


 そんなことを考えているとき、とある音に気が付く。


 ぽつぽつと、水が落ちてくるような音がした。次第にその音の間隔が短くなり、しまったと軽く頭を抱えた。


 他の冒険者たちも予想外だったようで、皆次々と愚痴をこぼしていく。


「マジかよ──雨じゃん」


 なんと、突然雨が降ってきたのだ。確かにここに来るあたりから、南の空に分厚いどん寄りとした分厚い雲が覆っていた。

 それを見て夜あたりから降るかもしれないとは思っていたが、ここまで早く大振りになるとは思っていなかった。


 どうしたものか──まさか降るとは思っていなかったので、

 そんなことを考えている間にも、雨は強くなり土砂降りになってしまっていた。


 この人も、傘を持ってこなかったのだろう。


 走って街の方へとかけって行った。俺も、そうするしかないのだろうか──。

 

「大丈夫ですか?」


 そう考えた時、誰かが俺の隣にやってきて話しかけてきた。そして、俺の頭上に何かをかぶせてくる。

 まあ、そんなことをする人は限られている。


「ウィン──」


 やはりウィンだった。ここまで走ってきたせいか、軽く息を切らしている。服は、ずぶ濡れになっていた。


「心配だったので、きました。傘──知ってますか?」


「うん、知ってるよ」


 傘。一般的には日差しが多いときに日よけといて使われるが、東方の雨の多い国ではこうして雨をしのぐときに使われることもあるという。


「ありがとう、ウィン。じゃあ帰ろうか」


「はい──」


 そして俺たちは雨の中帰路に就く。狭い一緒の傘に俺とウィン。

 相合傘というやつだ。


 傘は大きさの関係で2人で1つの傘を使おうとすると、どうしても身を寄せ合う必要がある。

 二人で傘を握りながら、腕がくっついてしまっている。ウィンの温もりを感じてしまい、どこか恥ずかしい。


「ウィン──その、ありがとね。傘持ってきてくれて」


「いえいえ。急な雨だったので、もしかしてと思ったら、やっぱりだったので。お役に立ててとても光栄です」


 気遣ってくれたことが、とてもうれしい。



「今日。賞金もらったんだけどさ、どこか食べに行かない。いつもよりもちょっぴり豪華な食事とかどう?」


「いいんですか?」


「いいよ。最近ウィンだって頑張ってるんだし、たまには贅沢したりしようよ」



「わかりました。では、お言葉に甘えて──」


「わかった、じゃあ行くよ」


 ウィンの表情が、はっと明るくなった。やはり、喜んでいるようだ。そして俺たちは街を歩き、目的の場所へ。

 人通りの往来が激しい通りを抜け、たどり着いたのは貴族の人達が来るような豪華な店。


 中に入ると、タキシードを着た紳士っぽい人が行儀よく頭を下げてきた。


「いらっしゃいませ──ガルド様ですか。今すぐ用意します」


 白いクロステーブルに包まれた、丸い机。

 椅子に座って、すぐにナイトコースというセットを頼んだ。

 コース料理というやつだ。


 そして、 の人が厨房へ行くと。ウィンに話しかけてみる。


「どう? こういうお店、きたことある?」


 ウィンは興味津々そうに周囲に視線を向ける。


「魔王軍との戦いで大戦果を挙げて──国王様に招待されたことがあります。それ以来です」


「来たことあるんだ。ここ、値段は高いけどおいしかったでしょ?」


「国王様とのご対面ということで、味までは詳しくは覚えていませんでしたが、普段とは違う料理だとは思っていました」


「そう、じゃあ──今日は活躍祝いだししっかりと楽しもうか」


「はい」


 ウィンの表情が、再び明るくなった。

 そして、ほどなくして料理が到着。前菜、野菜のスープ、丸い形をしたパン。


 それも普段見ないような珍しいものだったり、味が市場で売ってるものよりも明らかによかったり、高いなりに良い素材を使っているというのがわかる。


 そして、メインディッシュのステーキが出てきた。


 十分に焼かれた肉の、香ばしい香りがこの場を包む。嗅いでいるだけで、よだれが出てくるほどだ。


「おいしそうです……」


「そうだね。じゃあ食べてみようか」


 そして、ナイフでステーキを切って、程よく切った肉を口に入れる。

 脂身が多く、やわらかくておいしい。普段なら、市場には出回らない部位の肉だろう。


「すごい、おいしいです。店に来て、よかったです」


 それから、数種類の料理が出された。

 いつも買っているものよりも、ふわふわで柔らかいパン。白身魚のムニエルに、高級野菜の炒め物。香り高いワイン。(ウィンにはぶどうジュース)


 そして最後、デザートには、ピーチの輪切りにクリームがのっかった料理。甘酸っぱいピーチと、トロッとしていて甘い生クリームがよく合っている。

 ウィンは、それをとても美味しそうに食べる。


「すごい、おいしいです」


「それは良かった」


 確かにウィンの言うとおり、どの食材も市場で買ったものよりもいい味をしていたり、香りをしていたり──さすがは貴族の人も来る高級料理店という感じだ。


「おなか一杯……です」


 かなり高いコース料理だったけど、払っただけいいものが食べられたと思う。

 その後、会計を済ませる。お腹いっぱい食べて満足げな表情で、夜道を歩く。


「今度さ、2人でどこか旅行にいかない?」


 俺の言葉に、ウィンがきょとんとした表情になって言葉を返す。


「急に、どうしたんですか?」


「いや、最近いろいろ戦いとかあったから色々疲れとかあってさ──どうかなって思って」


「行ってみたい、です」


 ウィンの表情が、ほんのりと明るくあった。よかった。

 あとは、どこに行くかなんだけど……。


 夜の、にぎやかな街並みを歩きながら、しばらく考え込んで1つの考えが浮かんだ。

 周囲の風景を興味津々そうに見ているウィンに、話しかける。


「海──とかどう?」


「海ですか? いいです、行ってみたいです」

 

 今まで、ウィンと一緒に行動するところは内陸の国だったり、山や平地だったりしていた。だから、そんな気分を転換するために海。それもリゾート地なんかいいかもしれない。なんにせよ、最近は戦いにかかりっきりで大変だった。

 たまには、こうして休暇を取るのもいい。


 ウィンとの休暇、想像するだけで楽しみだ。







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