最終章
第102話 ギルド登録
帰った後は、長旅の疲れからかすぐに二人とも眠り込んでしまった。
次の日、目が覚めたのは日がすっかり高くなった昼頃になってしまった。
長旅の後で、食料を全く用意していなかった俺たちは近くの市場でパンを買って腹を膨らませる。
そして、家事や長旅で着ていた服の洗濯(時間が押していたので最小限)や買い物を終えたころにはすっかり夕方になってしまった。
もちろん、まだやることはある。
俺とウィンは、まだ疲れが残っている体を動かし目的の場所へ。恋人同士になったということもあり、手をつないで歩く。もちろん、手を絡め合う恋人つなぎだ。
ウィンの細くて柔らかい手。ぎゅっと絡め合うように握っているだけでとても気持ち良い気分になれる。
そして、しばらく歩いた先はギルド。
夕方で人気もまばらな時間帯。
まずは受付へ。フィアネさんがいつもの通りにっこりとした笑顔で出迎えてくれた。
「ガルドさん。ニナさんから聞きましたよ。大活躍だったんですよね。素晴らしいです」
「そ、それはどうも……」
「ニナさん、ガルドさんのことべた褒めしてましたよ」
「それはどうも──」
軽く会釈をして、本題に入る。噂になっていたのか……。ニナの姿勢は嬉しいが、本題はそれではない。
ウィンだ。
タツワナ王国での戦い。
ウィンは、自身のトラウマを乗り越えて再び武器を手に取った。
最初こそトラウマがあって戦えなかったが、自らのトラウマをウィンは克服した。そして、戦いが終わった後ウィンは決意したのだ。
「私、ガルド様と一緒に戦います」
「わかった」
とのことで、王都へ戻ってから開いた日にすぐにギルドへ向かっていったのだ。
ウィンが一歩前へ出て、口を開く。
「私の、ギルド申請をお願いします」
ウィンがフィアネさんに戦う決意をした瞬間、フィアネさんは言葉を失う。
そして少し時間がたって、はっと明るい表情になった。
確かに、ウィンは至近距離での戦闘ができないという欠点があるし、今までトラウマがあって戦えなかったというのは事実だ。
それも、魔王軍でも強力だった敵を撃破するという強さを持っている。もともと素質はあったし、フィアネさんもウィンのことを知っていた。
何かあった時のことを考え、戦力はあった方がいい。
フィアネさんは、当然喜んでいた。
「本当ですか? ありがとうございます」
そう言ってウィンの肩に手を置く。フィアネさんはそれを聞いた瞬間、はっとしたようなとてもうれしそうな表情になる。
「ウィンさん──戦う気になったんですか? 私、とっても嬉しいです!」
「あ、ありがとうございます」
「ウィンさんのこと、応援してますからね。すぐに用意をいたします」
フィアネさんは、楽しそうな雰囲気で奥の事務室へと足を運んで行った。
すぐに書類を渡され、ウィンがフィアネさんの指示通りにサインなどを記入。それをじっと見ていると、誰かが話しかけてくる。
「ニナちゃん。お前のことをほめちぎってたぜ『やっぱり先輩はすごいんです』って胸を張ってたくらいに」
「そこまで俺のことを──」
ニナ──そこまで俺のことを褒めていたのか。嬉しいんだけど、ニナだって頑張ったからあの結果が出た。できれば、そっちの方に胸を張ってほしかったのだが──。
そんなことを話しているうちに、受付の隣にある机で、ウィンが書類を書き終えた。
ウィンが紙の向きをフィアネさんの方に変えて手渡す。
「はい、登録完了です。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
ウィンが頭を下げた。これで、正式にウィンは俺たちの仲間に
「いえいえこちらこそ。ウィンさんが仲間になってくれて何よりです。これから、よろしくおねがいいたしますね」
「はい──」
元気の良い返事に、今朝のウィンの意気込みを思い出す。
そして、書類を返却して軽く規則の説明をすると、今日のギルドへ行く目的はすべて終わりだ。
ほかのギルド仲間が、気さくに話しかけてくる。
「あんたがウィンちゃんね。これからよろしく」
「ウィン。ガルドが野獣になって襲い掛かったら、消し炭にしてもかまわないからな!」
「ビッツ、お前いたのか──」
ビッツがからかうように言う。エリアもいたようだ。こいつ、人のうわさを聞きつけたりするのがうまい。
人知れず、いつの間にかこういううわさ話があるところにいたりするのだ。
「しねーよ。んな事」
「大丈夫ですから。ガルド様はそんなことしません」
「んなこと言って、嫌らしいことさせられてない?」
「してません、エリアさん!」
ウィンは両手を強く握って言葉を返す。
そして、ぷくっと顔を膨らませた。
この場に、明るい雰囲気が流れる。最初は、ウィンがギルドで溶け込めるか心配だったけれど、これなら問題はなさそう。
これからも、ウィンがいやすくなれる雰囲気になれるようにいろいろ工夫していこう。
それから、ギルドを出て街を歩く。
活気があり、人通りの多い通りに入る。すれ違う人が増えたり、二人の間に人が入る場合が増えてはぐれてしまいそうになる。
ウィンは周囲をキョロキョロとしながら、怯えた表情をしていた。
そんなウィンに、スッと手を差し出す。
「手、繋ぐよ」
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