第90話 ウィンなら、やり遂げられる

「ウィンなら、必ずやり遂げられます。トラウマだって乗り越えられます。ずっと隣にいた俺だからわかります。ウィンは、両親が思っているよりもずっと芯が強い存在です。だから、考え直してください」


 そして俺は頭を下げた。



 両親は、互いに視線を合わせてキョロキョロする。やはり、厳しくしていても両親として、ウィンに対する想いはあるのだろうか。


 確かにひどい両親ではある。しかし、ウィンにとっては唯一の両親になる。


 見逃さなかった。今まででも両親に対して「ひどい」とか「別れた方がいい」みたいに言うとウィンは悲しそうな表情をしていた。


 聞いてみると、嫌な両親でも「認められたい」という気持ちがあるというのだ。お兄さんやお姉さんのように認められたいという感情が心に残っているのだ。


 家族だからだろう。


 こんな両親でも、ウィンにとっては唯一の両親なのだ。いよいよとなったら両親をウィンから排除するしかないが、それはウィンにとっても心に傷になる。


 いろいろ言いたいことはあるが、一番はウィンの気持ちだ。ウィンの感情が、それが一番大切だ。


 どうしても、両親が考え方を変えないというのなら、あきらめさせて強引に引き離すが──。

 当然、ウィンの心を傷つけてしまうことになるが。

 ウィンが悲しい気持ちになってしまうことになるが、俺はやるだろう。


 けれど、それは最終手段だ。もしかしたら、ウィンが悲しまずに済むかもしれない。

 両親に腹が立っている感情は確かにあるが、それでウィンが悲しんだら元も子もない。


 一度押してみよう。


 もう一押しだ。考えが、変わりつつあるのが理解できる。


「俺はウィンが捨てられて、一緒に暮して──思ったことがあります。


 ウィンは──とっても気づかいができて、本当に素晴らしい子だとおみます。本当なら、親にだってなりたいくらいだ。

 けれど、俺はウィンの両親じゃないから──どうやったって限界がある。あなた達にしかできない、ことだってある」



 両親は、互いに見合って複雑そうな表情をしている。


「お願いします。もう、ウィンを罵倒したりするのはやめてください。せめて一度だけチャンスをください。いつも隣にいた私だからわかります。ウィンは──必ず最後にはできる子です。ウィンを見捨てないで下さい」


 両親も、さっきまで怪訝だった表情が和らいできているのがわかる。

 ──変わるのだろうか。


 そして、父親の方がオホンと出来をした後に言葉を返してくる。


「そこまで言うなら、一度やってみろ……」

 その言葉に、ウィンの表情がはっとなる。


「やってみろ」


「わかりました」


 ぶっきらぼうな父の言葉ではあったが、ウィンはコクリと頷く。

 ウィンの心の中にあるだけ軽くなったような気がした。



 そして、俺たちはこの部屋を後にして部屋へ。




 まずは、グラーキとの戦いだ。成功すれば、すべてがうまくいくはずだ。強い敵ではあるけれど、力を合わせて戦いたい。絶対に、うまくいくようにしていこう。



 翌日、パンとフィッシュアンドチップスの食事を終えた後、シャフィーと作戦会議をしようとギルドへ。


 そこで、驚きの光景を目にした。


「やっほーガルド君。ウィンちゃんとの恋の進展はどう?」


 聞き覚えのある軽はずみな声色に、驚いて一歩引く。


「エリア!」


 豊満な胸元がチラ見しているタンクトップに、太ももが見えるホットパンツ。

 相変わらず目のやり場に困る服装をしているエリアだ。


 それだけじゃない。


「私だっています!」


 聞きなれた声で、不満そうに顔をぷくっと膨らませている後輩。ふわふわの、淡い茶髪の髪をした女の子の後輩、ニナだ。

 白のフリフリのついたワンピースに、黄緑色のミニスカート。

 さらに麦わら帽子までかぶっていて、とてもかわいらしい。


 こっちは、まるでピクニックに来てるような感覚だ。なんで服装に気合入れてるんだ?

 好きな人とでも会いに行くとでも言わんばかりだ


 それにビッツもいる。予想外の光景に、頭に手を当てて戸惑う。


「3人とも、どうしてここに?」


 色々な疑問が脳裏に浮かぶ。招集でもかかったのだろうか。


 だとしても、王都からタツワナまで数日はかかる。

 すぐに使者を送らせたとしても、とても間に合わない。


 すると、ニナがふふんといった感じで腰に手を当て、話しかけてきた。


「何でここにいるか、驚いてるって感じですね」


「そうだけど」


「転移魔術だよ転移魔術」


 ビッツの言葉に、ピンときた。

 転移魔術。Aランク相当の魔術師でも、ほんの一握りの魔術師だけが使えるという珍しい代物だ。

 おまけに消費魔力も激しい。使用しただけで、数日間ぐったりと寝込むんでしまう人がいるほどだ。


 相当な国家の危機でない限り、使用することはない代物。

 不思議がっていると、エリアとビッツが事の真相を話し始める。



「ここの貴族が、大金を払ったみたいよ。ウィンの両親がね」


「本当か?」


「相当強い魔物だと聞いた。それで、血相を変えて俺達に援軍を頼んだんだとさ。どれだけ金を突っ込んでも、俺達の国に今すぐ助け舟をくれってな」


「ビッツさんの言う通りです。それで、大金を払った代わりに、国に一人しかいない転移魔法を使える人を呼び出して、送ってもらいました」





☆   ☆   ☆


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