第87話 ウィンの涙

「いいさ。元々仲間だったんだし、そっちこそ、大変そうだな」


「そうだな。後は、俺の仕事だ。お前は彼女のところへ行って、ゆっくり夜の営みをするなり休むなりしてくれ」


 特に突っ込まなかった。確かに、何の権限もない俺がやれることは限られている。

 それよりはウィンだ。さっきから何も言わない。


 しょんぼりとしていて、落ち込んでいるのがわかる。

 おまけに両親からどんな反応をされるか──。


 それでも、行かないわけにはいかない。俺がフォローして何とかしよう。

 俺もウィンも、重い足取りで家へと帰っていく。


 時間はすでに日が沈んで夜。

 帰ってすぐ、両親とばったり出会う。


「結果、どうだった?」


 説明しないわけにはいかない。初めて両親と話した部屋に移動。



 事の顛末を説明。

 グラーキが強敵であったこと。そのグラーキに対して他の冒険者達と一緒に戦ったが何もできなかった。ウィンは──何とかフォローしないと。


「ウィンは、俺に力を供給して力になってくれました」


「戦えるのかい?」


「まだです。でも力になって──」


「つまり、一人で何にもできない役立たずってことだね」


 両親は、むすっとした表情で話を聞いていた。


 俺が必死にフォローしても、父親がさえぎるように言ってくる。

 どんよりとした、重い空気がこの場を包む。


 そして、父親の方がドンと机を叩いた。


「この役立たず! お前みたいに肝心な時に使えないゴミなんて、産まなきゃよかった


 ひどい──。

 あまりの衝撃に、言葉を失ってしまう。


 ウィンは、何も言わず大きく目を見開いて、ただ家族を見ていた。


「やっぱり戦えないじゃない。ただでさえそれしか能がないってのに、それがだめならあんた何にもできないじゃない」


「今は、そうですけど絶対、戦えるようになりますから──」


「そうです。私が指導しますから」


「信用できないね」


 ウィンは、何も言えなかった。うっすらと、目から涙を浮かべている。

 その涙を拭って、両親たちに言葉を返す。


「ちょっと、夜風にあたってきます」


 そう言って、後ろを振り向くと、早足でこの部屋を出ていった。


 俺達から目をそらして下を向き、しょぼんとした元気がない声。

 ずっと一緒にウィンと生活していたが、あそこまで暗そうなウィンは見たことが無い。


 相当精神に答えているというのが、良く分かる。


 ウィンは、あまり自分の弱みを見せたがらない。抱え込んでしまう。

 でも、今回は一人じゃ無理だ。とても抱えきれない。


 力になれる保証はないけれど、一人にするわけにはいかない。


「すいません。ウィンのところに行きます」


「──勝手にしろ」


 そっけない返事をした父親の言葉を最後まで聞かず、早足で部屋を出る。

 ウィン──悲しんでるだろうな……。


 少しでも、そばにいてあげないと。待っててくれ、ウィン。



 そして、外へ出て庭の池のほとり。

 椅子代わりになりそうな大きな石に、ウィンはちょこんと座っていた。


 背中を丸め、両手で目の当たりを抑えている。

 そっと近づいて、隣に座り込んだ。


 予想通りの光景がそこにあった。俺はウィンの手を優しく握る。


 ウィンは、ただ泣いていた。涙を拭いているシャツの裾が、濡れている。

 相当ショックだったのだろう。当然だ。あんなセリフ。仮にも娘であるウィンに言っていい言葉じゃない。



 ウィンは、俺が来たことに気付いたのか、肩を寄せてきた。


「私、ダメなんでしょうか──」



 きっと、ここに来たのは涙を見せるのが嫌だったからだろう。

 人前で涙を見せない性格。今日だけじゃない、今まででも、同じようなことがあったら周囲に隠れて、一人で涙を流していたのだろう。


 少しでも、そんな悲しみを癒してあげたいから──。そんなウィンを、ぎゅっと抱きしめた。


「そんなことないよ、ウィン──」


 抱きしめて、ウィンの髪を優しくなでた。

 暖かいウィンのぬくもりを全身に感じる。

 ウィンの髪を、彼女か持っている悲しみと一緒に解きほぐすかのように──。


「ウィンは、ダメなんかじゃない──」


 優しく囁く。俺は、ウィンのことをずっと見てきたからわかる。


 ウィンは、いつも俺のことを優しく思ってくれている。

 どんな時も逃げないで、さっきだって自分のトラウマを知りながら俺のピンチの時に戦おうとした。


 ウィンなりにいつも一生懸命で、気遣ってくれていて。


 優しさと、強さを持っている存在だ。


 それを──トラウマをえぐって、罵声を浴びせて。ひどい、ひどすぎる。

 ましてや、両親という立場の人間が──決して言っていい言葉なんかじゃない。


「絶対、何とかして見せるから。一緒に、頑張ろう」


「──ありがとうございます。私、魔法で戦えるように頑張ります」


 ウィンは、涙を拭って言葉を返した。

 大丈夫。俺への加護は使えるんだ。後は、それを使って戦うだけ。






 その後、街の川沿いの原っぱの堤防に俺達は移動した。人気も少なく、ここならいろいろと話せて、ウィンも両親のプレッシャーから解放されると思ったからだ。

 そこに俺とウィンがちょこんと体育すわりで座っている。

 真っ黒できれいな星空を、じっと見つめていた。


 ウィンはちょこんと体育すわりをして、ただきれいな星空をじっと見ている。


 色々と、考え込んでいるのだろう。

 そして、視線が星空に吸い込まれたまま呟く。


「私、出来るようになるんでしょうか──」




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