第57話 互いの気持ち

 近くにある屋台で、パフェを売っていた。

 ちょっと、元気付けてあげよう。


「ウィン、食べる? 緊張感がある場所にいて、お腹空いたでしょう」


「はい。ありがとう、ございます」


 そして、屋台のおじさんからクレープを買う。


 クリームがてんこ盛りで、イチゴが乗っかっている甘くておいしそうなクレープ。

 ウィンが、好きそうな外見だ。


「いただきます」


 そう言ってウィンがクレープのクリームを口にする。


「お、おいしいです……」


 ウィンがはぐはぐと、美味しそうにクレープを召し上がっていく。

 顔をほんのりと赤くして、嬉しそう。あまりに夢中になっているのか、口元にクリームがついている。


「ウィン、クリーム、ついているよ」


 人差し指をウィンの唇に当て、ついていたクリームを取る。ウィンは、俺のことをじっと見て、はっとした表情になった。


「ありがとう、ございます」


 ウィンが喜んでくれて、何よりだ。

 幸せそうな表情をしていると、こっちまで幸福感を感じる。もっと、ウィンに尽くしたいという気持ちになる。


 取りあえず、ウィンの機嫌は大丈夫だろう。


 そんなウィンの表情を見ながら、さっきまでのことを思い出す。

 何はともあれ、国王様と手を組むことになった。


 今まで以上に、突発的な仕事が入ったりして、逢えなくなる日が増えることになるかもしれない。

 ウィンが、さみしい思いをする日が、もっと増えるかもしれない。



 だから、今のうちにウィンとの思い出をいっぱい作っておこう。

 ウィンの肩を、優しく叩く。


「ウィン。これから、もっと忙しくなるかもしれない。一緒にいれる日が、少なくなってしまうかもしれない」


「それは、大丈夫です。安心して、行ってください。私は、構いません」


「ありがとう。ウィンのこと、もっと尽くすから」


「そう言ってもらえると、とっても嬉しいです」


 そう返したウィンの表情が、どこかさみしそう。

 絶対に、一緒にいる日はウィンを大切にしよう。そう、今も──。


 ウィンがクレープを食べ終わると──。


 ぎゅっ──。


「え……」


 ウィンを抱きしめる。両手で頭をぎゅっと抱きしめ、強くなでる。


「ガルド様。どうして……」


「だから、一緒にいるときは。せめて、大切にしたい。だから」


 ウィンをじっと見ながらつぶやく。

 ウィンは、ほんのりと顔を赤くして、俺をじっと見ている。


 何かを、欲しているかのような表情。


 髪を、ほぐす様に優しくなでる。

 ウィンは、俺の身体を預けてきて、ぎゅっと抱きしめてくる。


 まるで、全てを俺にゆだねているかのように。


 これがウィンの気持ちなのだろうか──。

 それなら、俺が出すべき答えはたった一つだ。


 ウィンのその気持ちに、しっかりと答えること。


 完ぺきにできる保証なんて、どこにもないけれど、精一杯ウィンのために尽くそう。


 心から、そう思えた時間だった。

 ウィンは俺の胸に顔をうずめながら、言葉を返す。


「よろしく、お願いします」


「こっちこそ」


 そうして、2人はこれからも互いに想い合うことを誓う。

 そして、俺達は家へと帰っていった。


 ウィン。これからも、大切にするから──。









 ウィン視点。



 国王様と会談をした次の日。

 割った市は仕事を終え、トントンと今日の夕食に使う野菜を切る。


 ガルド様は、もう少しで帰ってくる。


 少しでもガルド様においしい料理を作ろうと料理にも気合が入る……。


 はずなのだが──。

 どこか、気持ちが上の空だ。


 最近、どこかおかしい。


 そっと胸に手を当て、そう感じるようになった。


 それは、ガルド様と一緒にいるとき。

 いつも、ガルド様に抱かれて寝ているとき。ガルド様に、抱きしめられた時──感じた。


 ガルド様は、あったかかくて、いつも私のことを想ってくれていて、包み込んでくれている。

 優しくて、私にとってなくてはならない存在。



 そうなのだが、最近ガルド様のことを見ているだけで私、心がきゅんとし始めたのだ。

 おかしくなっちゃったのかな?


 胸が、締め付けられているかのように苦しい。

 ドクン──ドクン──と、心臓の音がとっても大きくなってしまう。


 それだけじゃない。


 ガルド様……、もっと私を見て。抱きしめて──。


 ガルド様のことを無意識に考えてしまう。


 私に時々向けてくれる素敵な笑顔。真剣な時のキリっとした表情。

 そして、私を抱きしめてくれた時のぬくもりと、腕をつかんだ時の感触。そして、クリームが唇が付いたとき、唇に触れた、人差し指。


 どれも、とっても素敵な表情で私の脳裏に焼き付いている。


 優しくて、心の底から安堵できる暖かさを持っている。



 それだけじゃない。考えてしまう。

 料理を作っているときとか。


 ガルド様、喜んでくれるかな? どんな味が好きなのかな? とか。

 ガルド様への意識が、消えない──。


 もっと一緒にいたい。手をぎゅっと握ってほしい、私を──もっといっぱい、強く抱いてほしい……。


 そんな要求が、私の中で、とっても強くなっていくのだ。

 心臓が、ドクン──ドクン──と高鳴っていて、ちょっと苦しいくらいだ。


 この感情、なんだろう。



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