第56話 協力

「では、単刀直入に言う。力が欲しい。俺達と、協力してくれ」


 そう言って、ソルトーン様は笑みを浮かべた。


「協力──ですか?」


「ああ」


 自信満々に言うソルトーン様。

 予想もしなかった言葉。どういう意味だろうか。



 ソルトーン様はじっと外の景色を見始める。


「この通り、私は国王になった。しかし、この国は問題点だらけだ」


「それは、肌で感じています」


「だから、色々と変えていこうとしているのだが──」


「それを邪魔しようとするやつがいる。そういうことですね?」


「ああ」



「俺は国王についてからこの国を変えようと動いていた。しかし、先代の国王は20年近く国王を担っていた。俺が国王になっても先代の方に権威を感じ、俺を置物のように扱って来る。国民達から声をかき集め、政策を上げても賛同してくれるものは少ない。特に不当に利益を得ているやつらからは、猛反発を受け、ありとあらゆる妨害工作をしてくる」



 やりたい放題好き放題。特に地方領主はそうだった。


 国民からは無駄に高い税を取り立て、貴族たちは中央からの目が届かないことをいいことに、毎日酒と女におぼれる。といった悪質なケースになっていることも少なくはない。


「ただ私腹を肥やしているだけならまだいい。そんな奴は、以前から一定数いた。だが──中には一線を越えるようなことをする奴だっている」


 確かに、王国の中でずるがしこく私腹を肥やそうとするやつはどこの国に一定数いる。

 悪いことではあるのだが、そんな奴がいるから国の危機なんて言った所で真剣に考える人はいないだろうと言うのが現実だ。


 ソルトーン様はソファーから立ち上がると、机に戻って下の引き出しを開けると、数枚の書類を取り出す。


 その書類を1枚1枚広げて、俺達の方を向けて机に置いた。

 その内容に、俺達は愕然とする。


「わかるだろう。俺たち王国の中に、旧魔王軍に情報を供給している奴がいるんだ」


 調査書には、俺達冒険者の情報や、政府の機密情報が魔王軍に漏れているとの記載があった。


「確かに、これは許すことができない」


 その通りだ。魔王軍とは、かつて多大なる犠牲を出してようやく守り切った強力な敵だ。


 ただ私腹を肥やすのとはわけが違う。

 俺達の仲間をたくさん殺してきた奴らに利益を与えるという明らかな敵対行為であり、絶対に許すことができない。


「俺もだ。こんなことが、隠れて行われているのが、この国の現状だ」


「そうだったのか─ー」


「何とかしたいとは思っている。しかし俺一人では、とても国中全てを見切ることなんてできない。信用できる戦友が欲しい」


「なるほど……」


「ガルド──。お前の王国での素行や行い。一人の冒険者となってからの評判は聞いている。経験者として、後輩たちの模範となり、慕われているそうだな」


「そ、そんなわけでは……」


 ソルトーン様の誉め言葉に、思わず謙遜してしまう。

 しかし、ソルトーン様は笑い飛ばしてさらに言葉を進める。


「謙遜するのもお前らしい。まあ、そんな評判を買って、お前と手を組みたいということだ。別に、強制はしない。」


「で、協力したらどうなるんだ?」


 そしてソルトーン様は協力体制の、具体的な内容について話し始めた。


 他にも協力体制を築いたたものがいて、情報を共有し合い、不正を暴いたり、戦ったりするということだ。

 既に他の冒険者や憲兵、信頼できる貴族たちも、この協力体制に入っているらしい。


 もちろん、返す言葉なんて決まっている。


「わかりました。協力しましょう」


「ありがとう」


 俺も、先日のクエストやいろいろな人から聞いた話でこの国を何とかしなきゃいけないとは思っていた。

 しかし、一人での活動には、ソルトーン様と同じで限界がある。


 この話に、乗らないわけがなかった。


「ウィンはまだ、戦うことはできませんが、俺が力になります」


 ウィンは下を向いて、しょんぼりしたような、複雑な表情をしていた。

 力になれないことに、罪悪感を感じているのだろうか──。


「本当にありがとう。その言葉が欲しかった」


 ソルトーン様が自信ありげな表情で手を差し出した。

 俺はその手を握り、固い握手をする。


「ガルド──この国のために、よろしく頼むぞ」


「こちらこそ。国王様の、力になってみせます」


 そして、俺達は協力し合うという契約を結ぶ。

 契約書を確認してサインをした後、俺達は部屋から出る。


 帰り道、ウィンとの会話は──なかなか弾まなかった。


 再び戦うということ、国王様に期待されているということについて考えこんでいるのだろうか。


 ウィンは、心ここにあらずという感じでどこか上の空だった。

 迷っているみたいだ。声、かけた方がいいな。


「ウィン?」


「何で、しょうか」


「焦らなくていいから。ゆっくり考えて、答えを出して……」


「ありがとう、ございます」


 返す言葉のトーンが、どこか暗い。やはり、罪悪感を感じてしまっているようだ。

 ちょっと、ウィンを元気付けた方がいいかな。


 ここは──公園か。近くにある屋台で、パフェを売っていた。

 ちょっと、元気付けてあげよう。


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