第55話 国王からの、呼び出し


 あのクエストから数日後。

 俺は久しぶりに政府の宮殿の中にいた。ウィンと一緒に。



 兵士の人に入場許可証を見せて、中に入る。


 階段を上がり、赤じゅうたんが敷かれた道を行く。

 時折、身分の高い貴族の人や兵士の人とすれ違う。


「緊張、しますねガルド様」


「まあね。何せ国王様との面会だもん」


 道を歩くウィンの動きが、緊張で動きが硬く見える。

 俺も、どんな呼び出しなのかとさっきから考え込んでしまっている。


 何があったか簡単に説明すると、国王様に呼び出しを食らったのだ。


 事の発端は、前回のクエストの数日後。


 夕方で、互いに仕事がなく一緒に料理を作っていた時のこと。

 いきなり家に、国の役人の人がやってきた。


 話によると、何と俺達は国王であるソルトーン様に呼び出しがかかったというのだ。

 何でも、この前のクエストのことを聞いて俺に話があるとのこと。


 それだけではない。ウィンと一緒にいることを打ち明けると、ウィンも一緒に来てほしいと告げられた。


 それから、ウィン用の正装のドレスを買った。

 国王様と会うことや、ウィンのためにできるだけいいものを買いたいと考え、それなりに値段が張ったドレスをえらぶ。


 そして、ウィンがくるりと体を回転させ、その姿を俺に見せてくる。


「あの……」


「何?」


「ガルド様──大丈夫でしょうか」


 ひざ下まで隠れた、茶色のロングスカート。とても上品で、ウィンによくあっている。

 とってもかわいい姿だ。


「うん、大丈夫。とってもきれい」


「ありがとう、ございます」


 皴も汚れもない、ピシッとした姿。

 いつものラフな服装とは違い、重要な時に着る正装だ。


 いつもよりも、上品で大人びてみえる。

 これなら、大丈夫だ。ウィンの手をぎゅっと握る。


「行くよ──」


「……はい」


 ウィンがコクリとうなづいて、俺はドアをノックする。


 コンコン──。


「ガルドです。入ります」


「おい、入ってくれ」


 その声にそっと扉を開ける。

 開いた扉の先に、目的の人物の姿があった。


「ようこそ、来てくれてありがとう」


 奥にある事務用の机の後ろに立っている男。


 ぴしっとした態度。


 さわやか系でイケメンともいうべき顔つき。ぴしっとしたスーツがとても似合っている。

 本物の国王だ。


 俺もウィンも、思わず見入ってしまう。

 国家魔術師だったときもすれ違ったり、近くで見たことはあったが、こうして同じ部屋に呼ばれるなんてことは初めてだ。


「とりあえず、ソファーに座ってくれ」


 そう言ってソルトーンは目の前にあるソファーに座り込む。


「わかり、ました」


 そう言って、一度ウィンと目を合わせた後、向かい合わせのソファーに座り込んだ。

 どうしても、緊張してしまう。

 それは、ウィンも同じだったようで、ソファーに腰を浅くして背筋をピシッとして座り、緊張した表情でじっと国王を見ている。


 俺達が席に座ると、ソルトーン様も向かい側の席にドッと腰深く座り込んだ。


「ようこそ。来てくれてありがとう。飲んでくれ」


 そう言ってソルトーン様は机にあるポットから紅茶を人数分入れる。

 俺と、ウィンの分のティーカップを目の前に置いた。


「格別な味だぞ。遠慮なく召し上がれ」


「……わかりました」


 変に断るのも悪いと考え、いただくことにした。

 ティーカップから放たれる香り。

 透き通るような感じがして、今まで飲んできた紅茶とは違うものだというのがわかる。

 まさか国王様に紅茶を入れてもらうとは思わなかった。ためらう気持ちはあるものの、断るのも悪いだろう──。


「砂糖は、そこのカップの中だ」


「はい」


 机の隅にある銀のカップのふたを開けると、角砂糖が入っていた。

 角砂糖を2~3個手に取る。


「砂糖、いれる?」


「はい。ありがとう、ございます」


 そしてウィンの紅茶に手に取った角砂糖を入れた。これなら、ウィンも飲めそうだ。


「……飲もう、ウィン」


「は、はい」


「「いただきます」」


 一度ウィンと目を合わせてから、ティーカップを両手で持って、少し口に入れる。


 その瞬間、紅茶の味に衝撃が走った。



「すごい!」


「こんなの、初めて──です」


「そうだろうそうだろう」


 ソルトーン様は自慢げに言葉を返し、自身も紅茶を飲み始めた。


 紅茶自体は物珍しさに市場で何度か買ったことがあるけれど、ここまで美味しいのは初めてだ。


「うちのカフェのより、ずっとおいしいです……」


 ウィンの舌にも、合っているようだ。

 ほうっとしながら、じっと紅茶を見つめている。



 そして、紅茶を数口飲んで机に置くと、話が始まる。


「さて、話に入ろう」


「──はい」


 この場の雰囲気が一気に張り詰めたものになる。

「二人とも、王国に仕えている時から噂では聞いていたよ。優れた力を持っていると──」


「私は、そんな──」


 両手をあわあわと振って謙遜するウィンに、ソルトーンがティーカップを机に置いて言葉を返す。


「そんなことはない。幼い年齢ながら、高い魔力を持っている。今は、戦いから離れているが、君が戦場に戻ってくるのを、期待してるよ」


「わ、わかりました……」


 流石に、国王様の前で「もう戦いたくない」とは言えないのだろう。

 目をそらして複雑な表情で、コクリとうなづいた。


「では、単刀直入に言う。力が欲しい。俺達と、協力してくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る