第53話 決着


 そして、再びナイト=ゴーントに視線を向けた。


 やはり、魔王軍でも地位がある存在。実力はそれなりにある。

 それでも、勝つのは俺たち。


「援護してくれ。俺が前線で戦う」



「了解」


「先輩、わかりました」


 エリアとニナが返事をすると、2人が距離を取ったまま攻撃に出る。

 俺は作戦を遂行するため、いったん身を隠す。


 ナイト=ゴーントは2人の姿に気が付くと、すぐさま反撃に出る。

 それを防いだのはビッツだ。


 2人の前に立ち、攻撃を自身の槍で受けていく。


「なんだこの力──」


 グォォォォォォォォォッッッ──!


 しかしビッツも、攻撃を防いでいるものの、ナイト=ゴーントのパワーに徐々に押され気味になってしまう。


 ニナとエリアが援護するものの、それでもナイト=ゴーントは反撃してくる。


「すげぇな、ガルド──こんな化け物の攻撃をうけてたのかよ」


 ビッツも、かなりダメージを受けている。

 早く、勝負を決めないと──。


 そして、俺は目的の場所にたどり着いた。すべてはこの時のために、身を隠していたのだ。


 ビッツやニナ、エリアが戦っている中、何も出来なくて歯がゆい所もあった。

 しかし、全てはこの時のため──。俺だって、ただ逃げ回っていたわけじゃ無い。


 術式で気配を消し、俺は背後に回っていたのだ。

 目の前に敵にかかりっきりのナイト=ゴーントは、俺の姿に気が付いていない。


 ひとえに、3人が身を挺して戦ってくれたおかげだ。

 3人の戦い、無駄にしないためにも、絶対にナイト=ゴーントを倒す。


 そして一気に飛び上がる。目指すは、ナイト=ゴーントの首。


 俺の剣がナイト=ゴーントの首へと向かう。

 ナイト=ゴーントは慌てて振り返ろうとするが、時すでに遅し。


「すごいです先輩!」


「そのまま首をぶった切れ! ガルド!」


 ビッツとニナの声が聞こえる。当然だ。みんなが身を挺して戦って、繋いでくれたチャンス。


 絶対に逃しはしない。


 剣に魔力を込めて、全力で振り下ろす。

 振り下ろした剣は、ナイト=ゴーントの首を貫き──。


 ズバァァァァ──。


 その首を切断し地面に落下。胴体は、そのまま雪崩のように崩れ落ちた。


 首の断面から、ドバドバとあふれる血。体はもう動かない。事切れているというのが、理解できた。


「ふぅ……」


 なんとか魔物を倒せて、ほっと一息つく。しかし、手放しで喜べるわけではない。

 今回は、犠牲者が出てしまった。


 冒険者として、本来それは覚悟しなければならないことだ。

 どんな理由であれ魔物を倒さなきゃいけない以上、自分だって魔物に殺される覚悟を持つべきだ。


 しかし、わかっていても犠牲者が出てしまったという事実に、胸が痛くなる。


 座り込んでいると、隣で憔悴していた冒険者のグループが何かを離していた。


「久しぶりだな。こんな激戦。魔王軍とたたかった時以来じゃなかったか──」


「ああ、あんときもピンチだったな。俺達もかなり追い詰められてて、もうだめかって時に、小さい女の子が魔物を倒してくれたんだ」


「そうそう。ウィンって女の子がいてさ。大ピンチだった時なんだけど。すっげえ強かったんだよ」


 ウィンの名前を聞いて、俺は体をピクリと動かす。今は戦える状態じゃないけど、前はこうランクの冒険者で、活躍していたんだったな。


「真っ赤な稲妻がウィンの杖から飛び出してきて、それが魔物たちを一撃で倒してったんだよ」


 お兄さんたちはウィンのことを話していた。まるで、ウィンが救世主であるかのように──。


 けれど、ウィンは今戦える状態にない。

 ウィンの心が癒えないと、そんな瞬間は訪れる事はない。



 そして、余韻に浸っていた雰囲気をぶち壊したのは、アイツだった。


「ったくよぉ。何やってんだよクズ野郎! こんな魔物位楽勝で倒せってんだよ、この無能ども!」


 パウルスが目の前にいる座り込んでいた冒険者を蹴っ飛ばして、げきを飛ばす。


 こいつ──。何もしていない、罵声をかけることしかできないくせに……。

 その言葉に、カッと頭に来た。


「ふざけるな無能指揮官! 人が死んでるんだぞ!」


 胸ぐらを思いっきりつかむ。

 慌ててエリアがやってきて離そうとするが、俺はその胸ぐらを離すつもりはなかった。



「こいつ。政府に言いつけてやる。俺の父親のこと、知らないわけじゃ無いだろうな! 遠くの極寒の地とかに、左遷させることだってできるんだぞ!」


 パウルスの脅しに、怯まずに反論する。


「何が政府だ。何が父親だ。いくつだお前。その年で、子供みたいに父さん父さんと、恥ずかしくないのかよ──」


「うるっせぇ! お前に思い知らせてやる。俺様に逆らったらどうなるってことをな。今に見てろよ」


「この野郎」


 まりにも頭に来て、パウルスにとびかかろうとするが──。


「さすがにまずいって。落ち着いて──」


 エリアが俺の腕を抑えて、止めてくる。


「さすがに政府の人に暴力はまずいって!」


 確かにそうだ。けれど、こっちだってそうですかとは言えない。

 結果として、冒険者の命が奪われたのだから。


 そして。パウルスに近づこうとした瞬間、誰かが間に割ってきた。


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