第50話 久しぶりの、クエスト
ニナと夜を過ごしてから、しばらくした時のこと。
今日は久々の大規模な遠征だ。それも強い敵が出て来るようなランクの高いもの。
以前から、街から離れた山にダンジョンがあり、そこに魔物が出ていて付近の街道の人達を襲っているとのことだ。
復帰してからしばらくは、強い敵と遭遇するわけでもなく比較的簡単なクエストだったから、気を引き締めていかないと。
集合場所の街のはずれにある噴水のある公園。
「おうガルド。一緒にクエストなんて久しぶりだな」
「そうだなビッツ」
「怪我とか、注意してね」
笑い交じりにたしなめてくるエリアに、ニナものってきた。
「そうですよ先輩。まあ、そしたら私が守ってあげますから、心配ないですよ」
そう言ってニナは、自分の胸にポンと手を置く。
今日は、ニナとエリア、ビッツもいる。
騒がしいクエストになりそうだ。
その他、Cランク以上の冒険者が数グループ。
そして周囲を見ていると、ひとりの男が視線に入った。
思わず、ボソッとつぶやく。
「ヤコダ……」
なんとヤコダがいた。茶髪で、チャラチャラした雰囲気の男。他の人相が悪そうな冒険者達と一緒に、地べたにたむろするように座り込んでいた。
すると、ヤコダが突然視線をこっちに向けてきた。
そして俺と目が合うなり、ケッとガンを飛ばしてきた。
明らかに不機嫌な表情になり、目をそらす。
「なんだよ。殴りたいなら、好きにしろ」
自然と湧いてくる殺意と、震える拳を理性で抑えながら言葉を返す。
「今はクエスト中だ。しねーよ」
クエスト中に味方に危害を加えるのは、規約違反だ。
確かにこいつはクソ野郎ではあるのだが、だからと言って見かけた瞬間に感情をあらわにするというのは違う。
──とりあえず、今はクエストを成功させるのが最優先だ。
ウィンとのことは、今だけは忘れよう。
そして時間が経つと、とある人物が出て来た。
「おい、いつまでぼさっとしてるんだよ。早く行くぞお前ら!」
横柄な物言いでその人物が俺達に叫ぶ。
ビッツは軽く舌打ちをして、つぶやいた。
「またあの無能指揮官かよ。これじゃあ先が思いやられるぜ……」
パウルス──。偉そうに葉巻を吸っている、軍服を着た男。
以前のクエストでもあった。
無能で、冒険者のことも理解せずに罵声を浴びせたりしていた男。
指揮官としての能力が、全くないやつ。
「同感。こないだ私が戦っていた時も、安全なところで的外れの指示ばかりして、何かあったら私達のせいにしてばかり。もう、一緒にしたくないって感じ」
エリアもけげんな表情で愚痴を漏らす。
やはり、評判が悪い。決まってしまったことだからどうにもならないが、やはり不安に感じてしまう。
とはいえ、彼が指揮官と決まっている以上どうすることも出来ない。
下手にもめ事になっても、目を付けられるわこの場が動揺するわで全くいいことがない。
この場でベストを尽くして、問題があったらギルドなり王国の仲間なりに相談するのが一番だ。
そして、パウルスはおもむろに俺たちに向かって叫んできた。
「おい、時間だ。出発するぞ! 早くしろこの無能ども」
あまりに配慮を欠いた言葉に、周りの冒険者たちがひそひそと愚痴り始めた。
「なんだよあのクソ野郎。自分は指一本動かさないくせによ……」
「本当だぜ。それで、うまくいかなかったら俺達に責任を押し付けてくるくせによ」
やはり、評判は悪いようだ。歩きながら、エリアが肩をトントンと触れてくる。
「まあ、警戒はしておきましょう。大事な後輩たち。失うことになるなんて、したくないでしょ」
「ああ……」
指揮官が無能。そんな事実を心の片隅において、クエストは始まった。
街から出て、草原地帯の道を行く。
宿場町の村で1泊してから、街道をそれて険しい山道へ。
人気がない獣道をしばらく進んでいると、山沿いに目的のダンジョンはあった。
入口で休憩と準備をし終えた後、いよいよダンジョンへ。
そして俺達はダンジョンの中を行く。
薄暗い、ニナ達明かりを照らせる冒険者の光だけが頼りの洞窟。
時折ゴブリンが奇襲をかけてくるが、難なく退治していく。
特に作戦を立ててくることもなく、順調。
しかし……。
「よかったぜ。今回も楽勝ね」
「ああ。帰ったら、たっぷりお返ししようぜ!」
明らかに冒険者達が油断してきている。
そしてやはり、統率をとるものがいないせいで、歩く隊列は乱れ始めていた。
プライベートのことを話していたり、じゃれ合っていたり、どこかピクニック気分の冒険者もいる。
当然、誰も注意しない。
指揮官たちは、冒険者達に興味がないのか、周囲の奴らと会話をしている。
「かなり、不安ね」
エリアが警戒したような表情で言葉を漏らす。同感だ。前回は襲ってくる敵がそこまで強くなかったから大丈夫だったが、もし強い敵が襲ってきたらこうはいかない。
下手をしたら死人が出ることだってあり得る。
パウルスが指揮を執っていた時は、そういった被害が出なかったのだろう。
というか、魔王軍との戦いが終わってそういった激しい、戦いがほとんどなくなってしまった
だから、いざ強い敵が襲ってきた時、対処できるのだろうか。
──不安だ。
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