第80話 偽物さんの事情

 ギルマスの部屋に入った私たちは、とりあえずソファーに座るようにと丁寧に言われた。


 王都のギルマスであれば、王城に呼ばれることもあるでしょうから、マーガレット義姉様にお会いしていてもおかしくありません。


 なので、王女であるマーガレット義姉様がいるわけで、王女殿下を立たせたままには出来ませんもんね。


「お久しぶりでございます。マーガレット王女殿下。留学を終えたのですね」


「はい。昨日、留学を終え帰って来ましたのよ。

 お久しぶりね。ギルマス」


 やっぱり、会ったことがあるようで、二人は軽い挨拶を交わした。


「それで、今日はどのようなご用件でしょうか」


「今日、伺いましたのは私ではなく、義妹であるアイリスの付き添いです。

 ギルドに用があるのは、アイリスですわよ」


「はじめまして、アイリス・フォン・アリステラです。

 ファミーユ支部の受付嬢から、アイリスを名乗る子がこちらで、騒ぎを起こしたと聞きましたので、今日は伺いました。

 その本人にもお会いできたので、理由も聞けると思いましたが、勝手ではありますが同席してもらうことにしました」


「久しぶりだな。ギルマス。私も容姿などがアイリスと似ているからな。一応来てみたよ」


「ああ、騒ぎというかな。そこにいる娘を冒険者たちがかまいまくって、餌付けの様に食事を与えたり、同席させよう争ったりして、まったく依頼に行きやしなくてな。

 そういう意味では、困っているな」


 サマンサさん、全く聞いた話と違いますよ。

 この娘が悪いんじゃなくて、悪いのは依頼に行かない冒険者じゃん。


「アイリスさんは、何で冒険者ギルドに来たのかな?」


 王女殿下、それなら私が貴族だと知って、真っ青な顔して震えているアイリスさんに話を聞いてみることにした。


 こんな小さな子が一人で、来るなんて何か理由があるはずだもんね。


 私がアイリスさんと呼んだ理由は、身長はあまり変わらないけど、鑑定したら私より二つ年上だったからだ。


「わわ私がギルドに来たのは、お姉ちゃんを探してもらうためです」


 入ってきた時にアイリス様が来てやったは、感謝しなさいとか言っていた子とは思えないな。

 あれは、冒険者たちの所為なのかな……


 格好からいって、アイリスさんは貴族じゃなく平民だろうしね。

 王都の冒険者は子供を様付けして、あれこれ世話する変な性癖の持ち主ばかりなのか。


「お姉ちゃんは、冒険者で、マロンって言うんですけど、この二匹の従魔はお姉ちゃんの従魔なんですけど、従魔だけ帰って来て、お姉ちゃんは帰ってこないのです」


 アイリスさんは、泣きながらそう説明してくれた。

 従魔が死んだりしていないってことは、マロンさんは死んだりしていないということだからそこは、安心だね。


「ギルマス。どうなのですか?」


「確かにマロンは、最近ギルドに顔を出していない。

 依頼を受けて帰って来ていないとかではないので、ギルドとして捜索はしておりません。

 それにアイリスからそのような依頼もギルドには出されておりません」


「アイリスさんは、ギルドに依頼は出したのですか?街を巡回している騎士に捜索を頼んだりとかは?」


「騎士のおじちゃんに話して、探してもらえるように頼んでもらったし、ギルドにも依頼を出しました」


 ギルマスとアイリスさんで話に食い違いがある。

 ギルマスは、依頼は出ていないと言い、アイリスさんは、依頼を出したと言っているどう言うことだ?

 ギルドの職員が依頼申請をなかったことにしたとかなのかな?それなら大問題だ。


「ギルマス!!」


「わかっております。アイリス、依頼申請を受付した受付嬢が誰か覚えているか?」


「うん。サマンサお姉ちゃんだよ。最近ギルドで見なくなっちゃったけど……」


「!!」


 サマンサって、ファミーユ支部にいるあのサマンサさんじゃないよね。


「ギルマス。ファミーユ支部にもサマンサって言う受付嬢がいるのですが……」


「ああ、同一人物です。今年入った新人なんですが、ファミーユ支部が出き、支部から受付嬢が足りたないと要望がありましたので、ファミーユ支部に行きたい者を募集しました。

 それでサマンサは、三日前にファミーユ支部に異動となりました」


 やっぱり同一人物だったか。

 でもそんなギルドの不利益になるミスをする者を新しく出来た支部に異動させたりとかするわけないし、サマンサさんには何か思惑があるのかな?

 悪事を考えているなら、私が王都ギルドに行くように仕向けたりしないと思うしな……


「マロンさんは、帰ってこなくなる前にどこに行くと言っていたか覚えている?」


「貴族の方がパーティーに入って欲しいから話を聞いてくると言って出て行ったっきり、帰ってきてません」


 もしかして、さっき顔を真っ青にして震えていたのは、私たちが王族や貴族と知ったからだけでなく、マロンさんの失踪に貴族が関わっている可能性があるからだったのかな。


「何という貴族かわかるかい?」


「ズイラン男爵家の三男って言っていました」


 あのお坊っちゃんか!!ファミーユから出ていって、王都に来ていたのか。

 またあのお坊っちゃんに会わなきゃいけないのか……


 でもマロンさんを見つける手掛かりなんだから仕方がないか。

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