第67話 お坊ちゃんさようなら

 ファミーユに到着したので、アナリスさん以外は、宿泊していただくことになるアリステラ公爵邸に向かうことに。


「アナリスさん。お願いします。面倒なことは最初に片付けたいので」


「任せてよ。私とパーティーを組みたいと言っていたからね。疑いもせずに着いてくるだろうね」


 そう言って、アナリスさんは、ギルドに向かっていった。


「でも町の外での依頼を受けていたりしたら、結界に弾かれて町に入れないから、もういない可能性もあるのではないか?」



「他の支部ならDランクから街の外での依頼もあるけど、ファミーユ支部では、魔の森があるからCランクからだってギルマスが言っていたし、結界を軽くイジって、お坊ちゃんご一行は、町から出れないようにしてあるからね。

 門番のダンさんも見てないって言っていたから、ギルドにいると思うよ」



 イジった結界を元に戻しながらそう言った。

 アリステラ公爵邸に到着したら、使用人だけでなく、カイル兄様も一緒にお出迎えのために待機していた。


 国王陛下たちが馬車から降りてきた。


「国王陛下、エリック宰相、ズイラン男爵。ようこそいらっしゃいました」


「アリステラ公爵。わざわざ出迎え感謝する。」


 使用人たちが護衛の騎士たちを視察の間、泊まる部屋に案内してくれるので、私たちは国王陛下たちを会議室に案内した。


「カイルよ。この屋敷は、王城より立派ではないか?」


「町の建物も見たことがないものばかりでしたしね」


 会議室に着いて、国王陛下用に用意された椅子にどっしりと座った国王陛下がそう言うとエリック宰相も続けてそう言った。


「あはは……ですよね。アイリスに任せたらこうなってしまいました」


 乾いた笑をしたあとにカイル兄様が私の仕業だと言いました。


「そうか……アイリス。私の城もやってくれんか?」


「国王陛下からの命とあれば、やらせていただきます」


「トントン」


 そんな話をしていると扉をノックする音が聞こえた。


「アナリスさんをお連れしました」


「わかった。中に通してくれ」


『!!』


 アナリスさんと一緒に入ってきたお坊ちゃんやパーティーメンバーは中にいるメンツを見て驚いていた。


「父上。なぜこちらにいるのですか?」


「ダメク!!私に質問するより、まずは国王陛下やエリック宰相、アリステラ公爵に挨拶をするのが先だろうが!!」


「ズイラン男爵よ。よいよい。十分な挨拶になったから構わぬよ。息子の問いに答えてやるといい」


「「同じく」」


 国王陛下もエリック宰相様もカイル兄様もお怒りですね。


「わかりました」


 国王陛下に頭を下げたあと、ズイラン男爵は、息子であるお坊ちゃんの方を向いた。


「私がここにいるのは、視察に同行しているからだ。お前のやらかしは聞いているぞ。

 それからこの町で、迷惑を掛けたと聞いたからアリステラ公爵にお詫びに来ているのだよ」


 ズイラン男爵は、視線を私に向けてそう言った。


「!!……なぜ、お前がここにいる!!」


 私にやっと気がついたお坊ちゃんがそう言った。


 それは私がアリステラ公爵家の者だからですけど、そういえば、あの時は、わざと名乗ってませんでしたね。


「名乗らせていただきますわ。私は、アイリス・フォン・アリステラ。アリステラ公爵家当主の妹です」


『!!』


 冒険者の格好をし、アナリスさんと親しげに話していた幼女が公爵家当主の妹だと知って、先程よりも驚いた顔をされていますね。



「そういえば、ギルドで不敬罪とか言ってましたが、私は公爵家で、貴方は男爵家なので不敬罪になりませんよね。

 不敬罪は、貴族家の当主の子息や令嬢は対象外ですしね。

 それにズイラン男爵から貴方は、男爵家と一方的に縁を切るという手紙を残されて、出ていったと聞いておりますから……貴方は、ギルドで平民をバカにし、男爵家の三男と名乗られておりましたが、それならば貴方の現在の身分は、身寄りのない平民ということなりますわよ」



「私が平民だと!!男爵家と縁を切るという手紙を残してきたが……父上が認めてないだろうから私はまだ男爵家の三男だ。いい加減なことを言うなガキが!!」


 そうだとしてもですよ。

 貴方の私に対する態度や言動は、公爵家の者に対してかなり問題がありますよ。


「ズイラン男爵よ。だそうだがどうするつもりなのだ」


「保留としていただいておりましたが、アイリス嬢から話を聞いた時点で、決めておりましたので、ダメクの希望通りに縁を切ります。書類はこちらに準備してありますので、国王陛下に承認していただければと思います」


「わかった。認めよう」


「だそうですよ。これで正式に貴方がバカにしていた平民になりましたね」


「ですが父上!!ミランダはどうするのですか?

 父上は私とミランダを結婚させたがっていたではないですか?」


 正式に絶縁されたのに元お坊ちゃんは、納得できず食い下がります。



「ああ、ミランダ嬢のことは気にしたなくていい。

 ミランダ嬢はお前と仲よく、屋敷にもちょくちょく遊びに来ていたから、お前も満更でもなかったようだし、ミランダ嬢もお前を好いていると思っていた。

 だが、妻のマリンやミランダ嬢本人に聞いてみたら、ミランダ嬢はお前ではなく、ミッシェルの事が好きなようでな。

 両親を失ったあとに男爵家でミットロード伯爵家の姉弟を保護した。

 そして、先月ミッシェルとの婚約が決まったからな」



「そんな……ミランダがミッシェル兄上のことが好きだったなんて……」


 仲良くしていたから両思いだと思っていたら、相手は、元お坊ちゃんではなく、元お坊ちゃんのお兄様がが好きで、ちょくちょく遊びに来ていただけで、一方的な片思いだったわけね。


 元お坊っちゃん……会うのは、これが最後になるから、失恋した元お坊ちゃんをレストランに連れていってあげようか……失恋レストランに……


「ダメクくん。君たちはファミーユから出ていってね。ファミーユの町、そしてアリステラ公爵領で冒険者を続けることは認めないよ」


 私が考え事をしているとカイル兄様が、低く冷たい声でそう言った。


「アリステラ公爵。冒険者がどこを拠点に活動するかは、自由なはずです。

 貴族でもギルドに権力を使って口出しすることは出来ませんし、ギルドも冒険者の自由を守ってくれるはずです」


「そうだね。でもね……君はアイリスを憎く思っているでしょう?」


「勿論です。こんなことになったのはこいつの所為なのですから!!」


 元お坊ちゃんは、自業自得なのに私を指差しそう言った。



「自業自得だと思うけどね。

 確かに貴族はギルドに非がないのに口出しは出来ないけどね。

 私は領主だから問題のある者を町から追い出すことは出来るんだよ。

 そしてこの町は、アイリスの張った結界により、住民に悪意を持っている者は、結界内に入れないようになっている。

 依頼を受けても外に出たら町に入れないし、町から追い出されることが決定している者をギルドが守ってくれると思うかい?」


 町に入れないから依頼達成の報告も出来ないし、狩った魔物もこの町では、買い取ってもらえないし、元お坊ちゃんがファミーユにいるメリットないよ。


「スクラルド王国から出ていってもらっても構わぬぞ。

 王国を被っている結界も同じような感じだから冒険者活動しにくいだろうからな」


 ズイラン男爵にナンシーさんのレストランを紹介したので、親子で最後の食事をした元お坊ちゃんは、パーティーメンバーと一緒に翌日、ハルムート公爵領側の門から出ていったらしい。

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