第27話 京都行き

 翌日の午前9時、俺は奥村教授の部屋を訪ねた。



「百地です。 失礼します」



「おお、百地君! 待っていたぞ。 京都では頼むよ」



「はい、頑張ります」


 俺は、緊張の面持ちで奥村教授を見た。



「正直に言うと、今回の件で推薦の候補者は、研究職員を含め他に5人いたんだ。 その中で、大学院の学生は君だけだった。 でも、私は君を選んだ。 君が考えた、3次元アルゴリズムによるAIプログラムを発展させてほしいと考えたんだ」


 奥村は、俺の前に来て肩を叩いた。



「はい。 私も、このプログラムを皆のたたき台として、さらに作りこむ事ができればと思います」



「頼むよ。 それで、君の論文の事だが、実は、ある人から情報を得て、初めて知ってな …。 それで、読んで見て驚いたんだ。 素晴らしいと思った。 良いタイミングだったよ」



「はい。 実は、あの論文は大学4年の時に、突然ひらめいて書いたんです。 人生で数回あるかないかの、ひらめきでした …。 それで、奥村教授の言われる、ある人とは誰ですか?」


 俺は不思議になり、奥村に尋ねた。



「君は、大学4年の時に、住菱嵐山テクノロジーを受験したそうだが、そこの社長からの情報だった。 社長の京極は、私の古くからの知り合いなんだ」


 奥村は、俺を興味深そうな目で見た。



「その会社は、三次試験で不合格になりましたが、社長とお会いした事はありません。 でも、面接の時に、3次元アルゴリズムのAIプログラムを題材として論文を書いた事を話しました。 あの時は、それほど注目されませんでしたが、なぜ、社長が …。 あっ!」


 俺は、静香の母の弟が、この会社の社長である事を思い出した。そして、もしかすると、彼女が動いたのではと思った。



「今回の件で、何か、心あたりがあるのかね?」



「いえ。 でも、私を推薦していただいて感謝してます」


 俺は、奥村に静香の母の事を言えなかった。



「そうか。 とにかく、頑張ってきてくれ。 そうだ。 夕方の歓迎セレモニーには、住菱嵐山テクノロジーの、京極社長も来賓として出席するそうだ。 事の仔細を確認すると良い。 では、これを君に…」


 奥村から、今回の資料一式と東慶大学の推薦状や新幹線の切符を渡された。



「確かに、受け取りました」


 その後、俺は京都に向かった。



◇◇◇



 午後1時に京西大学に到着し、事務局を訪ね手続きした。


 その後、指定された宿泊先に向かった。

 そこは大学の近くにある高層ホテルで、俺の部屋は12階の角部屋だった。 恐らく、民間企業の援助があるのだろう。


 食事も24時間、好きな時間に部屋に運ばれる。宿泊費や食費全てが主催者側の負担だ。半年間もリッチな気分を味わえると思うと、俺は嬉しくなってしまった。


 

 今回のプロジェクトには、国の研究機関から3名、民間企業から6名、国立及び民間の大学から6名の計15名の研究技術者が参加する。 

 年齢は、23歳から39歳までおり、俺が一番若かった。

 座長は、京西大学工学部の鈴木准教授で、彼女の指示のもと研鑽する事になる。



 夕方の歓迎セレモニーは、このホテルの最上階となる30階の宴会場で行われる。

 開始時間は、午後6時だ。



 まだ、時間があったので、俺は京西大学に戻り、キャンパス内を散策した。

 この大学は、俺が在籍する東慶大学と同じ旧帝大系で、昔からあるせいか、都会の中心部に所在する割に敷地が広かった。校舎も、歴史を感じさせる趣のある建物が多かった。


 ここには医学部以外全ての学部が入っており、広大な敷地を有している。

 くまなくキャンパスを見るには、5日間はかかりそうだ。


 

 俺は、まだ昼食を食べてなかったので、まずは学食を探した。日曜で休んでるところが多かったため探すのに苦労したが、なんとか営業している食堂を見つけて入った。


 そして、いつものように、好物のカツ丼の食券を買った。


 直ぐにできたので、トレイにのせて外が見える窓際の席に座った。


 テーブルに置いたカツ丼を見ていると、なぜか静香と東慶大学の学食での事を思い出してしまった。



「あの時も、カツ丼を頼んだな」


 俺は、ポツンと小さく独りごとを言った。


 最後に電話して以来、静香とは会ってない。少し寂しい気分になってしまった。

 暗い昼食となったが、気を取り直し食事に専念した。



 その後、食事を終えてから、キャンパスを散策し、講堂や教室の場所を確認した。



 そして、午後5時過ぎにホテルに戻った。


 部屋でシャワーを浴びた後スーツに着替え、最上階の30階にある歓迎セレモニー会場へ向かった。


 少し早かったが、30分前に会場に着いた。

 受付を済ませ入ると、まばらではあるが人が集まっていた。


 俺は、緊張の面持ちで、自分の席に座った。


 しばらくすると、俺の隣に男性が来た。



「初めまして、住菱嵐山テクノロジーの宗田です。 よろしくお願いします」


 名刺を渡されたが、俺は持ってなかった。正確に言うと、必要性がなくて名刺を作った事がなかったのだ。



「すみません。 俺はまだ学生の身分だから、名刺を持って無いんです。 こう言う場で必要と思いつかず、大変失礼しました」


 そう言って、手帳のページを破り、そこに自分の氏名、大学名と所属、携帯番号を書いて渡した。

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