第25話 思わぬ収穫

「あの〜、彼女の家族構成は分かりますか?」


 田所は、しばらく写真に見入っていたが、どうしても知りたくなり質問してしまった。



「ご依頼内容は、菱友 静香に関する一般的な事項が調査対象となります。 従って、個々の家族の詳細な情報は、本来は調べません。 しかし、この華麗なる一族の場合、副次的にどうしても知り得てしまう情報があります。 ある意味、大変な作業でした。 本来は別途料金の範囲ですが、調査の過程で知り得た情報について、ここで全てお話しします。 但し、報告書には記載しない内容も含みますが、よろしいですか?」



「はい。 ぜひ、お願いします」



「では、少し待ってください」


 そう言うと、佐々木は、報告書とは別に手帳を取り出した。

 そして、ゆっくりと説明を始めた。



「菱友 静香は、創業家一族直系の家に次女として生まれました。 彼女には姉がおり2人姉妹です。 現在は、父が最高経営責任者ですが、引退すると、長女が跡をとります。 名前を香澄と言って、静香より2つ上の25歳です。 妹に負けず劣らずの才色兼備で、現在、メガバンクのひとつである、住菱銀行の役員をしています」



「えっ! 25歳の若さで、メガバンクの役員を?」


 田所は、驚いた。



「メガバンクといえど、創業家である菱友家に逆らう事はできません。 頭取は、住菱物産の社長である、菱友 才座が人選します …。 ちなみに、祖父や父や姉も、最難関国立大学の東慶大学の法学部出身です。 あと、母親ですが、住菱財団の理事長をしており、難関国立大学の京西大学を卒業しています。 いわゆる超エリート一家です。 それと、これ …」



「どうしました?」



「住菱財団のパンフレットに理事長の写真がのってます」


 佐々木は、写真を見せた。



「凄く美しい人だ」


 田所は、思わず声を上げてしまった。



「この方が母親です。 姉妹が美しいのは、この影響かと思われます」



「確かにそうだな。 ところで、家族は4人なんですか?」


 田所は、思わず聞いた。



「はい。 菱友 静香の祖父母は、別に居を構えており、4人で暮らしているようです。 但し、使用人も同居しています。 でも、もしかしたら、長女の香澄は、別居してるかも知れません」


 佐々木は、手帳をペラペラめくった。



「あのう。 父、母、長女の3人は、住菱グループの重鎮として活躍しているが、今後、次女の静香はどうなるんだろう?」


 田所は、とても気になる様子だ。



「祖父が最高経営責任者の頃より、姉の香澄が後継者として指名されています。 でも、負けず劣らず優秀な妹ですから、グループ企業の社長に抜擢されると思います。 あくまでも、私の推測ですが …」

 

 佐々木は、自信ありげに答えた。



「菱友 静香が住んでる場所は分かりますか?」



「田園調布に家族と住んでます。 使用人がいる大邸宅です。 報告書に記載してあるので確認してください」



「報告書を見ます。 他に、分かった事はありますか?」


 いつの間にか、田所の目が輝いていた。



「家族構成については、これ以上の情報はありません。 菱友 静香についても …。 こんな所かと」



「待ってください。 付き合ってる男性とかは?」



「あっ、そっち? もちろん、報告書に記載してありますよ」


 佐々木は、報告書を開いた。



「今は、いないようです」


 佐々木は、淡々と語った。



「百地 三瓶という男と、付き合ってるのでは?」


 田所は、2人の関係について、半信半疑だったが、一応聞いてみた。



「当方の調査の中で、そのような男性の名前は確認できませんでした。 ご存知の方ですか?」



「いえ、勘違いでした。 それより、今はいないと言われましたが、過去には、いたんですか?」


 田所は、直ぐに話題を切り替えた。



「ミス東慶に選ばれた頃、唐沢 涼介というイケメン男子学生と付き合っていたようです。 当時は、美男美女の誰もが羨むカップルとして注目されていました。 でも、この男性とは、今は、付き合ってません」



「別れた事を、確認できたんですか?」



「唐沢 涼介はゲイで、現在、男性と同棲しています。 私は、大学時代に付き合っていたという話も、実は、怪しいと睨んでます」


 佐々木は、意味深げに話した。そして、続けた。



「張り込みで分かったんですが、菱友 静香は、最近、大学に行ってないようで、家にも帰ってません。 短期留学でもしてるのかも知れません」



「大学に聞けば分かるのでは?」



「個人情報のため、事務局では教えてくれません。 それで、法学を専攻する大学院生に聞きましたが、知ってる者はいませんでした」



「調べる術はないのですか?」



「家族に聞くのが、最良の方法ですが …。 但し、あれだけの一族なので、顧問弁護士が出てくるから、まず無理でしょう。 使用人を買収する方法もありますが、失敗した場合、訴えられるリスクがあります」



「そうなのか …。 だとすると、今は、彼女に会えないのか。 あと、長女の居場所や男性関係も知りたいが?」



「依頼内容から外れているため、調査してません。 新たな契約となりますが調べますか?」


 佐々木は、一瞬、不思議そうな顔をした。

 田所が姉に興味を示した事を訝しんだのだ。しかし、直ぐに営業の顔に戻った。



「いかほどで、調査をお願いできますか?」


 田所は、興味深げに聞いた。

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