裸の女王さま〔童話パロディ〕
楠本恵士
女王さまはアポではない
昔々……と言っても、それほど昔ではない昔。
ある国に、とても贅沢で傲慢で派手好きで虚栄心の固まりのような、女王さまがいました。
女王さまは、朝、昼、晩、毎日、毎日、ひどい時には数十分間に一回、ドレスを着替えていました。
「なんか、この服ラインが気に入らない。こっちの服は宝石が少なくて地味で気に入らない」
わがままな女王の豪華絢爛なドレスに着替えに毎回つき合わされる、城の者たちは、たまったものではありません。
ある時、女王が着衣した瞬間にドレスの縫い目が「ピリッ」と破れた時は大変な騒ぎでした。
「なに、このドレス! 破れるなんて不良品じゃないの!」
着付けを手伝った侍女は、震えながら激怒する女王に言いました。
「お言葉ですが、それは女王さまが少しだけ、お太りになられたせいかと」
「なんですって! 誰かこの無礼者を裏の井戸に放り込んでおしまい!」
「ひぇぇぇっ! お許しください!」
城の裏には通称『お菊井戸』とか『貞子井戸』と呼ばれる古井戸があり、女王は気に入らない者たちをその井戸に放り込んでいました。
井戸に放り込まれた者の中には、井戸の中をよじ登って外に這い出してくる者もいました。
髪を振り乱し、びしょ濡れで井戸の
「おのれ、女王……この恨み晴らさずおくものか」
井戸に放り込まれ、這い上がってきた者たちは結託して、わがままな女王に対する報復計画を練って実行に移しました。
ある日──城に不思議な服を仕立てるという触れ込みで、一人の仕立て屋がやって来ました。
女王の前に仕立て屋を案内してきた、侍女が言いました。
「女王さま、この仕立て屋は、遠い国で不思議な服を作ると評判の仕立て屋です──ぜひとも女王さまに献上して召していただきたいドレスがあるので、お目通りをと言って城を訪ねてきました」
「そうなの、おや? おまえは先月、古井戸に放り込んだ侍女に似ているけれど?」
「あれは、私の双子の姉です」
「そうなのか、最近よく井戸に放り込んだ者と、そっくりな身内が城に現れる」
女王の前に進み出た仕立て屋は、ドレスが入った木箱のフタを開けて、中に入っているドレスを披露しました。
「このドレスを、ぜひとも女王さまに着ていただきたく参上しました」
木箱の中を覗いた女王は、怪訝な表情をしました……箱の中には、どう目を凝らして見ても何も入っていません。
そのコトを指摘する前に、侍女が言いました。
「女王さまにお似合いの素晴らしいドレスです、ドレスの宝石も素敵です……言い忘れておりましたがこのドレスは【アポやパカやパヌケやヴツケ】には見えない魔法のドレスでございます」
「アポとパカには見えないドレス……そうだと思った、見事な赤いドレスで」
「赤いドレス?」
「い、いや、青にも見える」
復讐に燃える侍女が、女王に言いました。
「一度、
「そうですね」
女王が着替えの部屋に向かおうと椅子から立ち上がると、仕立て屋が言いました。
「お待ちください、この魔法のドレスは繊細なドレスでフタを最初に開けた場所で着替えていただかないと、着ていただいた女王さまの体に馴染みません……その場でお着替えを」
女王さまの頬がヒクヒクと痙攣しました。
「ここで? 人の面前で着替えをするの?」
「はい、女王さまにはこの見事なドレスが見えていますよね」
「当たり前です、しっかり見えています。着替えます」
下着姿になった女王に、仕立て屋は別の小箱を開けて言いました。
「こちらが、ドレスに合う下着でございます」
女王の目には下着が入っている木箱も、空の木箱にしか見えません。
侍女が言いました。
「素敵な下着です」
「そ、そうですねシルクの……」
「シルク?」
「い、いやっ素晴らしいデザインの下着で……仕立て屋それも、この場で身に付けないとダメなの?」
「はい、この場で」
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