第5話 球技って…ムズイよな②

「お、おい大丈夫か景一!楽しすぎて手加減を完全に忘れてた。本当にごめん…」


やってしまった。つい普通にサーブをうってしまった。

とりあえずボクは景一をおんぶして保健室に運ぶ。


「大丈夫か!マジで申し訳ない!」


「あ…あぁ…まぁなんとか…」


意識はまだあったが、衝撃が強かったか、朦朧としている。


「本当にごめん!景一!」



しばらくしてボクたちは保健室に到着する。


「すいません、先生!ボク…その…けいい…松崎くんにボールを当ててしまって…ちょっと診てもらっていいですか。」


「はーい、わかりました。とりあえず景一くんをベットに寝かせてあげてください。」


「あ…あの…ちょっと罪悪感でいっぱいなので…ボクもここにいてよろしいですか?」


「全然いいけど、体育の時間、遊ばなくていいの?」


「全然いいんですボクは。自分が怪我させてしまったので、どんな感じなのか知っておきたくて。」


「あんまり自分を責めないでね。怪我は多分深刻じゃないから、傷口だけ消毒しておくね。」


「ありがとうございます!」


景一が治療されてる間考える。


(もしこれで嫌われたらどうしよう…スタートダッシュでかけてどうするんだよ…景一にはいろいろとありがたいことしてもらってるのに、恩を仇で返すなんて…)


落ち込んでいると、


「とりあえず松崎くんの治療は終わったよ。

松崎くんにはこの1時間は安静にしてもらうよ。つきそいたいならいいけど、どうする?」


「ボク…つきそいます。償いたいので。」


「あら、そうなのね。じゃみておいてあげてね。」



____________


俺は寝ているふりをしている。


(なんて伊織はええやつなんや〜!!!こんなええやつと友達なってマジよかったわ〜!

もし伊織が女やったらもう一目惚れもんやぞ!ヒャァー!友達ってええもんやな!)


そう、俺はまあなんともなかった。あの瞬間は死ぬかとは思ったけど。空手では一個上のバカ強い女子から顔面蹴られまくってるから、あれくらいあまり大したことはない。でも痛いものは痛いけどね。


でもなんてったって、顔面直撃でぶっ倒れるのはちと恥ずかしい。それも人前でとなるとよりそれは増す。 


あの衝撃はなかなか強かった。でもあれでぶっ倒れるのは、俺もちょっと弱くなったなって思う。受験前は全然空手に行けてなかったからかなと考えるが、答えはわからない。


さて、そんな哲学みたいなことを考えていたら、伊織がやってきた。


「あ…あの……本当にごめん!!!」


「ボク、とても反省してるから…どうか許してください…」


おうおう、顔がやつれてるぞ大丈夫か。

伊織こそ保健室で寝るべきだぞ。


「まぁ待て待て。先生も言うてたけど、そんな自分を責めたようなこと、あんまりすんなよ?」


「へ!?起きてたの!?寝てると思ってた…」


「俺がそんなボール当てられたくらいでへたるたまじゃねーよ。それに…」


「それ…に…?」


「べつに怒ってねーし、お前のこと嫌いになんかならへんから、安心しろ。なんか俺上から言うてるみたいやけど。」


「ほんとに…?」


「ほんまやて、こんなんで怒るわけないやろ俺が。っていうても俺のこと全然知らんやろうけど笑笑」


冗談を交えて笑ってみる…が、



_________



「景一ぃいいぃぃい!!」


「うわぁっ!っと。」


ボクは安堵でいっぱいで、涙屈んだ他人には見せられない顔で景一の胸元へ飛び込む。


「まぁまぁ、そう泣きなさんなって。」


「俺のことめちゃくちゃ心配してくれたのはすごい伝わってきたからよ。安心しろ、なんせ生きてるんやからさ笑笑」


景一は怒っていなかった。それよりもボクのことを気にかけ、その広大な心で許してくれた。


「ボク…もう嫌われたかと思った…」


「いやいや、俺はそんなんで人を嫌うような器の小さい人間じゃねぇよ。むしろありがてぇよ。己のまだ甘い部分に気づけたからよ。」


「よかった…もう…死ぬかと思った…」


「それは俺のセリフじゃ笑笑」


景一の魅力に圧倒される。口からもう溢れるように、


「なんか…ん…ボクの…頭…撫でて…」


なぜか、景一に触れてほしいと思った。その包容力でボクを包み込んでほしい、そう思った。


「おぉおぉ、意外と伊織って甘えん坊さんなんやな、こういう場面とかでは。」


ボクは景一に頭を撫でられる。自然と自分の罪が浄化されていく…そんな気がする。


「こういうの…好きなんやな。こんなイケメンでかっこいいやつが、こういうときはこどもみたいにみえる。」


「まだ…こどもだし。」


「まっせやな。俺もやし。」


ボクはずっと撫でられていたい、そう思えるようになった。


「しっかしよぉ〜、あんな華麗なサーブ決めてくるって、伊織すげぇな。俺じゃなかったら1発気絶もんやったぞ笑笑」


「もう…それ思い出したくないよ…」


「褒めてんだよ笑笑」


「まぁでも、これは勝負アリかな。圧倒的なもんみせられたし、俺の敗北よ。」


「いや…今ボクの…弱みさらけだしてるから…ボクも負けだよ。」


「んじやぁどっちも敗北な!笑笑」


「うん…」


「まぁあとで腕立てやるか!」


__________


俺はこの歳でも頭を同級生に撫でるんだなぁとなにか感慨深いものがある。妹にはするけど、同級生にはしたことがなかった。


「なんか…この状況なかなか照れるぞ…」


自分もなにか恥ずかしくなってくる。

顔が少し熱くなっている気がする。

子供をあやしているならまだわかるような気もするが、幸か不幸か、同い年…。

さすがに同級生に、ずっと頭を撫でるというのも照れてくるものだ。


「いやなら…もういいよ。ボクも落ち着いてきたよ、ありがとう。」


「あぁ、なかなか恥ずかしい気もするがね。

いやー伊織がもし女子だったらよ、俺一目惚れもんやぞ。」


「…え?」


「あんなに人のことを心配できて、自分を苦しめるくらい反省して、相手のとこを思えるって、いきすぎはあかんけどよ、すっげぇええぞ。」


素直に思う。自分を責めるまでいくのはいきすぎだとは思うけど、それを除けば本当にいいやつなのだ。


「う…うっせぇよ。」


「おぉ、強くは否定しねぇんだな。」


「まぁあんまここでゆっくりしてるのもなんやし、そろそろいくか。」


「…そうだね、いこうか!」


「まぁこれからもよろしくな、伊織。」


「うん!景一とはずっとやっていけそう!」


「そらよかったわ。はっはっは!」


俺たちは保健室を後にする。

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