第3話 勝負
「よーし、みんな集まったから始めるか。
俺は体育を教える、山本だ。よろしく。」
『よろしくお願いします』
「では始めに準備体操を行って欲しいのだが、2人1組でペアを作ってくれ。男女問わずでいいから。では、始め。」
俺は体育が苦手なんや。
実は空手を小さい頃からずっとやってきているのだが、これを裏を返すと、空手しかやってこなかったのだ。
やから筋力や体力はあるものの、走りもペーペーで球技などもってのほか。
しかし努力すればなんとかできる。
「準備体操のあとなにやらされるんか怖いわ〜マジで。」
と残念がっていると、
「おい!景一ぃー!一緒に準備体操しようぜ。」
後方から伊織の声が聞こえてくるのだ。
振り向くと、
「おいおい、なにダルそうにしてるんだよ。やるぞやるぞ。」
「おーい、体育は俺苦手なんよなぁ。でも体は柔らかいぜ?」
「なるほど?そうかいそうかい。なら股割りで勝負だ!」
「やってやろうじゃぁねぇか!負けたら昼飯のときジュース奢りな。」
「いいだろう。受けてたとう。」
俺たちの勝負が幕を開けた。
「じゃあいいかー?みんなペアは作れたかー?よし、そしたら各自体を柔らかくしておけ。」
「いざ!真剣に!」
「勝負!!!!」
「っとはいってもよ、どっちから先するよ。」
肝心なことを忘れていた。相手という審判がないとこの勝負、決着がつかないじゃないか。
「まずはそこからだね。よし、景一君や、先やっておくれよ。」
「任せろよ。んじゃ、いっきまーーす。」
俺は股を全開に開き、ゆっくりと前へ倒してゆく。
「イヤー柔軟体操は気持ちが良いねぇ。」
俺は顔、胸、腹と順に地面につけていく。
「景一…なかなかやるな。後ろから押して痛がるのをみたかったのに。」
「へへーん!小さい頃から柔らかい方やったからな。」
しかしながら、今は昔ほど柔らかくもない。
まぁまぁ限界である。
「いやいや、ボクの方が柔らかいもんね。」
「よし、俺の柔らかさを刮目したところで、選手交代や。」
気持ちが良い。股割りは昔から得意だったので、これは勝負に勝てるんじゃないかと期待を膨らませておく。
「ボクはもう準備満タンだよ。」
「よし!倒れてみよ!」
俺の合図で伊織は前へ倒れる。
「おぉおぉおぉ…伊織、なかなかやるな。」
「どうだ。ボクも柔らかいだろう。」
「いや!俺の方が柔らかい!俺が伊織の背中を押してやろう!そして痛みの領域に踏み込ませてやる。」
「お…ちょっとまっ…」
「いくぜぇーー!!」
掛け声と共に俺は伊織の背中をぐいっと押す。
「ヒヤァッ!」
「お…おいどうした。そんな痛かったのか。」
「い…やそうじゃ…なくて…」
「あっすまんな。心の準備ができとらんかったか?」
「まっまぁ…そう…ね。」
なにか俺は申し訳ないことをした気がする。
まぁ人ってタイミングってもんがあるからな。少し自分を責めてみる。
「って…おいおまえやっぱり熱あるんじゃねぇか?顔あけぇぞ。」
「へっ!?そ…そんなことないよ!」
「お前なんか震えとるぞ。マジで大丈夫か?」
「大丈夫だい!なんもないよ!」
「そら…よかったけどよ…しんどかったら保健室行けよ。」
ちょっと心配になった。朝からなにかしんどいのを隠しているのではないか。熱を無視して学校に来て、それを隠しているのではないか。
まぁでも本人がそう言うんだし。いいか。
「お…おうありがとな。」
しかし、決着がついていないことに気づく。
「ていうか、勝負つかねぇな!?」
「そうだね、どうしようか。」
俺は悩んだ末の答えが、
「よし、互いの昼飯を食べ合おう。」
である。
「お…ま…まじか。」
まぁたしかに急にそう言われるとびっくりするわな。
「それでええやろうよ。まぁ俺はかぁちゃんの弁当やけどよ笑笑。」
「まぁ…そうだね。それにしよ…うか。」
まだ戸惑いがある様子。
「よしそれでいこう!」
戸惑いを無理矢理言いくるめるように言う。
「まぁ会って1日も経ってないのによ、弁当もらうとか、なかなか厚かましいやつやな、俺。」
そうだよ、俺今日伊織と会ったばかりである。なにかと俺はさっきから烏滸がましい気がするのも気のせいだろうか。
「まぁ…ぐいぐいくるけど全然いいよ。」
「お前…むちゃくちゃいいやつじゃねえか。ありがとうな。俺もなんか伊織にはベラベラ喋れるんよ。」
「それはよかったよ。ボクもなんか心を開けると言うかなんというか。」
「よーし!互いに仲が深まったことだし!」
「気合いいれて授業励みますか!」
俺たちの仲が深まった。
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