7 光

「このジャガイモ、白い宇宙船の娘が持ってきてくれたんだな。あのときは悪いことをした」

「おかげで最後にこうして食物があるんだからな、本当ならもっと前に飢え死にしていただろう。しかも、子供や女性を巻き添えにして……」


 兵士たちは、エリカの持ってきたじゃがいもでの最後の食事をかみ締めるように、ほおばっていた。

 しばらくして、警報が鳴り響き、兵士たちは疲れた体に鞭打って持ち場に赴く。


 レーダーにはこれまでにない百以上のドローンが出現した。

「今までにない規模だ、相手もこれで決めるつもりだろう。せめて艦隊の本隊を相手にしたいものだ。あんな小さなドローンにやられるとは。無念だ」

 司令官は兵士達に最後の戦いになるだろうことと、今まで奮戦してくれた事への感謝の念を放送した。


 ドローンは容赦なく近づき、闇を切り裂くように数条のビーム砲が発射されてくる。

 クラリスは最後の防御シールドを張って防いでいるが、穴だらけの防御シールドを縫って、数機のドローンがもぐりこみ、クラリス本体に肉薄し攻撃してくる。

 クラリスポートは、にもなく被弾し、至るところ破壊されていく。


「撃ちまくれ!」

 クラリスポートも防戦するが、敵の数が多く、防御シールドが破られるのも時間の問題となってきた。


 そして………

「最終のシールドがやぶられました! 」

 司令官に絶望的な報告がなされた。

(ここまでか………)


 果敢に応戦するが、裸同然のクラリスポートに、群れる羽虫のように迫る戦闘機の容赦ない攻撃に何もできない。

 兵士たちは連続する爆発の振動のなか、地面にへたり込むもの、祈りをささげるもの、遺書を書くもの、もう応戦する気力も失っていた。


 助けはこない………


 司令官は胸のポケットから手帳を出すと、そこに挟んでいる子供と一緒に映した家族の写真を見つめ

(すまない。お父さんはもう、お前たちに会うことができない………) 

 司令官が絶望の目で、スクリーンをみつめた時、暗黒の宇宙空間に



 ……光が輝く……



 敵の戦闘機が閃光とともに次々と、撃破されていく。

 まぼろしのような光景

「なんだ! どうしたのだ!」

 司令官が叫ぶと、目の前を白銀の翼が横切った。


「スカーレットルナ! 」


 緊急無線が入ってきた。

『こちらリーマ運送のエリカです。みなさんの家族からのお届け物を持ってきました! 


「エ……エリカ君! 」

『ハエがいっぱいいるので、ちょっとまってくださいね』


 無線が切れると、スカーレットルナはバリアブルレーザーを連射し戦闘機を次々に撃墜していく。


 数分で、敵の戦闘機を壊滅すると、クラリスポートのゲートに入ってきた。

 エリカが着艦すると、兵士たちが駆け寄ってきた。中には涙する者もいる。


 外から見たクラリスは悲惨な状況だが、内部も相当ひどい状態だった。

 さらに電気が乏しいため薄暗く、空気もよどんでいる。兵士たちは見るからにやつれて、エリカは言葉もなかった。

 しかし、エリカたちを見ると皆、微笑んでくれる。


 スカーレットルナの格納庫から、カイトとミルフィーユが大きな箱を荷車に載せて降りてきた。


 箱には兵士たちへの手紙や差し入れが入ってあり、クラリスの担当者へひきわたすと。兵士たちは、自分の分がないか群がってくる。


 司令官がくると。エリカは沈痛な顔で

「思っていた以上です………」


 司令官は力なく微笑み

「このざまです。あなたが来てくれなかったら、今頃私たちは宇宙の藻屑となっていました」


「いえ……」

 エリカが言葉を途切らせると、司令官が

「エリカさん、どうやら無事、市民を送り届けていただいたようですね、もし市民がここにいれば、今頃、多数の死者がでていたことでしょう、お礼を言います。ところで皆、元気ですか」

 エリカは、市民がミドルサードで行き場のないことを話すことができず。


「ええ、元気にしていますよ。できれば、クラリスポートの皆さんを連れて帰りたかったのですけど、シャトルがだめで……」


「家族だけでも助けてもらって、それで十分ですよ。何もありませんが、とりあえず休んでください」


 スカーレットルナは中が見えない専用の格納庫をあてがってもらい、ルナのことは一部の信頼おける者以外には秘密にしてもらうことにした。

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