第7話 迷宮の玄室の補足

【聖剣:勇者だけが手にすることができる代物】


 善なる秩序に従うモノは、善き神々の恩寵を与えられている。この世界の人々は、誰であれ祝福を受けている。聖剣を含む聖遺物は、それが極めて僅かであったとしても、恩寵なり祝福なりを認識して持ち主を識別する。

 聖剣は、付喪神のような存在であり、恩寵と祝福を評価して、気に入った者を持ち主に選ぶ。選ばれた者だけが聖剣を振るうことができるようになる。他の者では重過ぎて持ち上げることすらできない。実は、物理的に重いわけではなく、聖剣が恩寵と祝福に干渉して、重いと錯覚させるだけである。なお混沌に属する者が手にすると、重さを感じるだけではなく、強烈な痛みに襲われる。

 聖剣は、神々の恩寵や祝福を持たない祀ろわぬ者たちに対して、干渉する術を持たない。従って、実際の物理的な重さそのままに、祀ろわぬ者たちは自由に取り扱うことができる。祀ろわぬ者であるキースやカネヒラであれば、聖剣を手にとって、振り回すことも思いのままである。しかし社会的に隔離された存在である祀ろわぬ者が聖遺物に触れる機会など無い。それ故、選ばれし勇者のみが聖剣を佩くことができる、という社会的共通認識が形成されているに過ぎない。



【恩寵】と【祝福】

 神々の恵み・慈しみ。何か凄い力で凄いことができる組込み装置モジュールのようなもの。力を供給する源泉が少し違う。また効果効用の方向性に違いがあり、専ら内向きと外向き、バフとデバフのようなもの。



【これ以上は言いたく無いような事】


 不死化の死霊術を自身にかける場合、外部の仕組み——自身の肉体に意識を留める魔法陣や呪物——が不可欠である。不死化の過程で、脳も変性するため、術の途中で意識が飛ぶ。当然、不死化の呪文は途中で途切れ、不死化は完遂されない。介助者による助力があれば完遂可能。だが介助者に隷属することになる。何も無い状態で、自身に不死化をかける利点は無い。乾涸びた肉体が残るだけで、意識は消失する。ただの自殺である。この賢者様は、意図的に不死化の呪文を途中で止めることで、乾涸びた肉体に意識を固着させたようだ。これは死霊術を使う秘密結社の中で懲罰方法の一つとして恐れられている。



【懲罰方法あるいは不死化呪文の活用】


 即席地縛霊製造方法。一種の懲罰。成仏させずに魂を変性した肉体に束縛する。人体の形状が完全に失われるまで束縛は続く。古の昔、死霊術の秘術を結社以外の者に漏洩した場合など、裏切りものに対する見せしめとして、この方法が使われる。キースはとある理由でこの外法を知識として持っているが、カネヒラは知らなかったようだ。古参の冒険者といえども太古の秘密結社内の秘法など知る術はない。



【玉鋼あるいは鉄の塊】について


 聖女様の体積を〇・〇五二立方米と仮定して、同じ体積の鉄塊に換算するとその重さは三九一・〇四瓩。鉄の比重は七・五二、純金は一九・三二、人体の比重は〇・九三二。なお、生前の聖女様は乙女体重四八瓩を保っていた。


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