第131話:人形を救出せよ
それは、晴れ渡った空にすがすがしさを感じられるある日の出来事でした。
アンティークの店「
ちょうど一人で店番をしていたワタクシは、せっかくなので店のカウンターに紅茶を用意して彼とティータイムを楽しむことにしました。
「今日はアッサムの良い茶葉が手に入りましたので、ぜひミルクティーでどうぞ」
「――あらぁ良い香りねぇ、ありがと♪ ところでね、ジェル子ちゃん。いきなりなんだけど錬金術で霊を
「はぁ? 霊を鎮める……ですか?」
ワタクシがどうしてそんなことを聞くのかたずねると、ジンはとある人形にまつわる話を始めたのです。
「第二次世界大戦中に捕虜になった女の子が持っていたっていう古いお人形があるんだけどね。それが回りまわって、うちの取引先のお屋敷に売られたのよ~」
「なるほど。アンティーク物にはよくあることです」
「それでね、そのお人形はケースに入れてお屋敷に飾られてたんだけど。なぜか夜中になるとケースが勝手に開いちゃうんだって……」
「はぁ、ケースが勝手に開くのは困りますね。毎日閉めるのもめんどくさいですし」
「いやいや、そこは怖がるところよぉ~⁉」
「そうでしたか」
ワタクシはいわく付きの物に慣れているせいか、どうもこういうことは鈍いようで、怖い話を聞くのは向いていないようです。
「きっとお人形に持ち主だった女の子の霊がとりついてるんじゃないかしら。故郷に帰りたがっているのかも。可哀想よねぇ……なんとかしてあげたいわ!」
ジンは頬に手をあて、人形に思いを馳せています。
この魔人はいかつい外見に似合わず、面倒見がよくて優しいのです。
「ねぇ、ジェル子ちゃん。アタシと一緒にそのお屋敷にお人形を引き取りに行ってくれない?」
「え、ワタクシも一緒にですか?」
「えぇ。買い取った人がすっかり怖がっていて、無料でいいから引き取って欲しいって言ってるのよ~」
「無料なのはいいですが、わざわざ出向くのは面倒くさいですねぇ」
ワタクシが渋い顔をしながら紅茶を飲むと、ジンは電卓を取り出して独り言のようにつぶやきました。
「そのお人形、値打ち物でね~。上手く霊を
電卓にはブランド品がたくさん買えるような数字が並んでいます。
「なるほど、とても可哀想な話ですね! ぜひお人形を救出して差し上げましょう!」
「さすがだわぁ、ジェル子ちゃん。アタシ、あなたのそういうところ大好きよ♪」
ジンは上機嫌です。まんまと乗せられた気がしますが、まぁ儲け話ですし別にいいでしょう。
「うふふ。そういえば、今日はアレクちゃんはいないの?」
「観たいアニメがあるからってリビングに引きこもってますよ。彼のアニメ好きにも困ったものです」
兄のアレクサンドルは、店番をさぼってリビングでアニメを観ているのです。
どうせお客さんがめったに来ない店なので別に構わないのですが。
ワタクシが上着を羽織って出かける準備をしていると、店と家を繋ぐドアからアレクがひょっこり顔を出しました。
「あれ? ジェルにジンちゃん? 出かけるのか?」
「えぇ、可哀想なお人形を救出しに行くんですよ」
「お人形……? なんかよくわからないけど、出かけるなら俺も一緒に行きたい!」
「まぁいいですけど……」
彼は幽霊とかそういうのは苦手なんですよね。大丈夫でしょうか。
「あらあら、アレクちゃんも一緒だなんて心強いわねぇ♪ さぁさぁ、行きましょ♪」
店の外に出ると、ジンは魔法の
彼はアラビアンナイトにも登場する有名な魔人で、これは物語にも登場する空飛ぶ絨毯なのです。
「やったぁ! 俺、この絨毯乗ってみたかったんだよ!」
「あらぁ、そうだったの。さぁ、どうぞどうぞ♪」
ワタクシ達が絨毯の上に座ると、ただの装飾された布にしか見えないそれはふわりと宙に浮きました。
「おお、浮いた!」
「さぁ、お人形を助けに行くわよ~! しゅっぱ~つ!」
ジンの合図で絨毯はヒラヒラと生地をなびかせて空を飛び始めます。
「おー、さすが魔法の絨毯! すげぇ速いな!」
「うふふ、見た目以上にハイスペックなのよ~♪」
たしかに大人三人分以上の重量が乗っているとは思えない速さです。
ワタクシ達はあっという間に、いわくつきの人形があるという家に到着したのでした。
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