第130話:奇妙な広告バナー
「えっと……あぁ、これがタイトルですか」
【最強の光の勇者アレクはすげぇ悪い魔王を倒す為に立ち上がる~最強スキルでなんかすごいからもう遅い~】
――タイトルの後半から
何がもう遅いのかさっぱりわかりませんが、とりあえず読み進めてみることにしました。
【アレクは激怒した。】
いきなり有名な文豪の作品をパクってきてますが……そういえば著作権はもう切れてるからセーフですかね。
【俺は勇者アレク! かっこいい戦士だ。】
勇者なのか戦士なのかどっちなんですかね。
【ついでにすごい魔法も使える。】
魔法の扱いが雑すぎませんか。
【今から魔王を倒しに行くのに、王様が百円と銅の剣しかくれなかったから俺は怒っている。】
まぁそれは確かに怒っていい案件ですね。
【おい、金を出せ。もっと持ってるだろ。俺は王様に剣を突きつけた。】
王様、こいつは勇者じゃなくて、ただのならず者です。
【俺は
魔王倒しに行ってないじゃないですか!
「――なんですか、これは。こんなくだらない小説の感想をワタクシに言えと。はぁ……」
まだ序盤ですが、あまりにも酷い内容に思わずため息がでてしまいます。
ワタクシ以外にもこれを読まされた人はいるんでしょうかね。だとしたら気の毒でなりません。
「こんなのどこに需要があるんですかねぇ……うん?」
読むのを放棄して画面の端に目をやると、そこには奇妙な広告のバナーがありました。
【魅惑の吸盤・友の会 新規会員募集中】
「みわく? きゅうばん? とものかい……?」
何ひとつ理解できる要素がなくて、好奇心から思わずタップしてみると、そこにはマニアックな世界が広がっていました。
【世界の吸盤マニアが集まる団体にあなたも入会しませんか⁉】
吸盤ってあのフックを引っ掛けるアレですよね。壁にペタッと貼るあの円形の。
実際、リンク先のサイトにはよく見知った吸盤フックの写真が、でかでかと掲載されています。
【会報の発行は年四回! 総フルカラーUVシルク印刷高精細箔押しにハードカバーに豪華ケース付き!】
「えぇっ、そこまでするような内容なんですか⁉」
そんな豪華な
【緊急対談スペシャル! 吸盤についている突起は必要派VS要らない派】
【巻頭特集:くっつかなくなった吸盤はお湯につけると復活するってホント?】
【悲報! 吸盤にカビ発生! ~こんな時どうする~】
「……どうもしませんよ! 買い換えたらいいじゃないですか!」
あまりにもくだらなさすぎて、思わずスマホを投げそうになりました。
「こんなのどこに需要があるんですかね、馬鹿馬鹿しい」
しかし、画面を閉じようとしたワタクシの目に飛び込んできたのは【全世界で会員一千万人突破!】という数字でした。
「えぇっ⁉ こんなしょうもないのに全世界で一千万人⁉」
もしかしたら、ワタクシが知らないだけで世の中のニーズは多様化しているのかもしれません。
そんなことを思いながら、広告ページを閉じてアレクの小説に戻ってみますと、誰かが評価したらしくポイントが入っていました。
「もしかしたら、ワタクシの頭が古いだけだったのかもしれませんねぇ」
吸盤友の会のように、アレクの小説もどこかの誰かのニーズに応えているのかもしれません。
くだらないと馬鹿にせず、最後までちゃんと小説を読み直ししてみよう。そして彼が帰ってきたら感想を伝えよう。
そう思って本文のページをもう一度タップしたワタクシなのでした。
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