第102話:アレク王国爆誕
「――ちょっと、あれは何ですか⁉ 動物が二足歩行してるんですが!」
「もし進化して文明を得たのが人間じゃなくて他の動物だったら……って仮定の元で作ったシミュレーションゲームだから、人間の代わりに動物が暮らしてるんだよ」
「だから“アニマル村”なんですね」
「うん。AIだからある程度行動に決まったパターンはあるけど、おしゃべりもするし、服を着替えてオシャレしたりもするし、まるで人間みたいで面白いよ」
確かに目の前で器用に網を操ってバシバシと一心不乱に虫を捕っている猫は、まるでパーティにでも行くかのようなドレス姿ですし、隣で木を揺すっているゴリラはアロハシャツを着ています。
「なるほど。皆さんオシャレですねぇ」
「おーい、ジェル~! シロ~!」
アレクが森の奥から戻ってきて、元気いっぱいに高らかにカゴを掲げました。
「見ろよ、でっかいカブトムシが捕れたぞ!」
「おー、すごいですね。これは図鑑で見たことがありますよ……たしかヘラクレスオオカブトです。こんな物まで捕れるとは驚きですね!」
「アレク兄ちゃんすげー! それ高く売れるよ!」
「へへ、マジか~。でも売るのもったいないなぁ」
売りに行くべきかどうしようか、なんて言いながら三人でカゴの中のカブトムシを眺めていると、シロが急に声をあげました。
「あっ、兄ちゃんの股間にニジイロクワガタがいるよ!」
森をうろうろする間に張り付いていたのでしょうか。
アレクの黒いズボンの股間に、虹色に輝く小さなクワガタムシの姿がありました。
次の瞬間、周囲にいた動物達が目の色を変えて一斉に集まってきて、アレクの股間めがけて激しく網を振り下ろしたのです。
バシバシバシバシ!!!!
「ギャー!!!! いてぇぇぇぇぇぇ~~~!!!!」
股間を押さえてうずくまるアレクからニジイロクワガタがブーンと飛んでいき、動物達は無言でそれを追いかけて行きました。
「大丈夫ですか、アレク?」
「なんなんだあいつら……お兄ちゃんのお兄ちゃんが捕獲されるとこだったぞ……」
「AIだから細かいことはあんまり気にしないんだよ。あのクワガタも高額で売れるから、動物達が必死で捕りに来るんだよね」
「くそ、あいつらには人の心が無いのか!」
「そりゃあAIですからね……」
涙目のアレクを慰めながら、ワタクシ達は再び村を探索しました。
先ほどは無言で網を振り下ろしてきた動物達でしたが、話しかけてみるといたって気さくなようです。
「おめぇは誰だ~?」
「あの、えっと。俺、アレクサンドルって名前で……」
「おめぇ、アレクサンドルってのか! 桃は好きか? よかったら食え」
「お、おう。サンキュー!」
最初は警戒していたアレクも、動物達に話しかけて多少打ち解けたようでした。
その後も川で魚を釣ったり、砂浜で貝殻を拾ったりしてのんびり過ごし、ワタクシ達はスローライフを満喫しました。
「ありがとうシロ、とてものんびりできて良い気分転換になりました」
「よかった~。じゃあ、そろそろ帰りのゲートが開く時間だから帰ろうか。……あれ? アレク兄ちゃんは?」
「それが、また虫取り網を持って森の奥に行ってしまいまして……」
彼はまだまだ遊び足りないと言って、ついさっき仲良くなった動物達と一緒に出かけてしまったのです。きっと当分は帰ってこないでしょう。
「困ったなぁ。これを逃すと次に帰るゲートが開くのは明日なんだよね。僕この後、神社でクロの散歩に行かないといけないんだけど……」
「そういえばワタクシこの後、観たいテレビがあるんですよねぇ」
ワタクシ達は顔を見合わせ、少しの間沈黙しました。
「――置いて行こうか。また明日迎えにくればいいし」
「そうですよね、アレクなら一日くらいここに居ても大丈夫でしょうし」
「そうだよね! アハハハハ!」
こうしてワタクシ達はアレクをゲームの世界に残し、元の世界に帰ってきたのでした。
ちゃんと「アレク兄ちゃんへ。また明日迎えに来るので適当に遊んでてね」と書き置きを残しておいたのできっと問題ないでしょう。
――その時は、そう思っていたのですが。
翌日、再びワタクシ達がアニマル村を訪れると、そこには信じられない光景が広がっていました。
村のいたるところに、パンツ一丁のアレクの姿を模った黄金の像が建設されていて、それを作っている住民達も同様にギラギラのビキニパンツをはいているではありませんか。
犬も猫も、鳥もゴリラも、みんなスパンコールで股間が輝いています。
「あのオシャレだった住民達が、アレクそっくりの悪趣味なパンツ姿に……!」
「たった一日で村の様子が変わっちゃった……」
恐る恐るパンツ姿の動物たちに話しかけてみると「ここはアレク王国だよ」と返事が返ってきます。
「建国してる……!」
「もう、兄ちゃん何やってんだよ……あ。僕の家、無事かなぁ」
橋を渡ってシロの小屋のあった場所に行くと、そこはパンツ工場に変わっていました。
「僕の家がパンツ工場に!!!!!!」
「なるほど、住民のパンツはここから……」
工場にいた動物にアレクの所在を聞いてみると「王様なら宮殿だよ」と森の向こうの立派な建物を教えられました。
言われた通りに宮殿に行くと、そこには動物達を従えてパンツ一丁のアレクが玉座に座っていたのです。
「いやぁ~、村の皆に王様になってって頼まれちゃってなぁ……じゃあお兄ちゃん、国作っちゃおうかと思ってさ~!」
ハハハと笑いながらテーブルに並べられた山盛りの果物を食べるアレクを見て、あらためてワタクシ達は彼のスペックの高さを思い知ったのでした。
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