第24話:ジンの支援

「ごめんなさいねぇ、呪いを解く報酬の話もしないまま押し付けて帰っちゃったのが気になって……あら、その子だぁれ?」


「この子はその……」


「やだ! ちょっと裸んぼじゃないの! ジェル子ちゃん、それは犯罪だわぁ……」


「誤解です! これはちょっと事情がありまして。とにかく奥へどうぞ」


 ワタクシは店の奥の扉を開け、ジンを我が家のリビングへ案内しました。


「あら~、お店の奥ってジェル子ちゃんのお家と繋がってるのね。リビングも広いし素敵ねぇ~」


「ママン。このおじちゃん、だぁれ?」


 ワタクシに抱っこされながらアレクがジンを指差します。


「あら~、おじちゃんじゃないわよぉ~、オ・ネ・エ・サ・ン!」


「……? おひげもあるし、おじちゃんだろ?」


 んもう!とプリプリ怒るジンをなだめつつリビングのソファーに座り、本題に入りました。


「実は、この子はアレクでして……」


 事の経緯を語るとジンは目を丸くしました。


「んまぁ~、ごめんなさい! あの腕輪のせいで大変なことになっちゃったのねぇ!」


「まさか呪いが時間を置いて発動するとは予想外でした」


「まるでトラップねぇ~」


「それでアレクがワタクシを庇ってこんな事に……早く元の姿に戻してあげたいです」


「でもジェル子ちゃん、呪いを解くのに最低でも二週間はかかるって言ってたじゃない」


「そこなんですよねぇ。それまでの間、アレクにはこのままで居てもらうしか……」


 ワタクシは親になった経験もありませんし、そもそもこんな小さな子と暮らす事自体が初めてです。そんな自分に育児なんてできるんでしょうか。 

 

 ふとアレクの方を見ると、ワタクシの不安なんておかまいなしといった感じで、バスタオルの端っこを噛むのに夢中になっています。


 思わずため息をつくと、その様子を見てジンが叱咤しました。

 

「ジェル子ちゃん! しっかりしなさい!」


「ジン……」


「アタシも協力するから大丈夫! アレクちゃんの為にも頑張りましょ!」


 ジンは両手でガッツポーズをして、ニッコリ笑いました。

 えぇ、確かにアレクをこのままにするわけにはいきません。今はワタクシが頑張らないと。


「そうですよね。ありがとうございます」


「いいのよ~、元々アタシのせいなんだから気にしないで!」


 ワタクシが少し微笑んでアレクの頭を撫でると、彼はくしゅんと小さくくしゃみをしました。


「あぁ! すみませんアレク! 寒かったですか⁉」


「あらあら。とりあえずアレクちゃんのお洋服とか必要な物をそろえましょうか。そぉれ♪」


 ジンが指先を軽く光らせてパチンと鳴らすと、バスタオルに包まれていたアレクは豪華なアラビア風の衣装を着ていました。


「キャー! 可愛いー! 王子様だわぁ~!」


「あの……これじゃコスプレなんで、もうちょっと普通のは無いですか?」


「えー、良いと思ったのにぃ~。じゃ、何にする? 動物の着ぐるみとか可愛くなぁい?」


「なるべく無難に実用性のある服でお願いいたします」


「あら~、残念ねぇ~」


 そう言いながらさらにジンが指を鳴らすと、Tシャツにズボンや、下着類、子ども向けの絵本や、玩具おもちゃ、子ども用の椅子いすや食器など、さまざまな品がリビングに現れました。

 よかった、これなら問題なく生活できそうです。


「ジン、ありがとうございます。助かりました」


「あぁ、そうそうこれも……」


 ジンはDVDを魔法で取り出しワタクシに手渡しました。


「なんですか、これ?」


「これはねぇ~子どもがグズった時に再生すると笑顔になっちゃう魔法のDVDよ!」


「魔法のDVD?」


「えぇ、アタシ観た事無いから詳しくは知らないんだけど~、頭が菓子パンで出来た男が菌を殴って撃退する番組らしいわ」


「頭が菓子パン?」


「こっちは人面の機関車が事故を起こしまくる番組ですって~。これも子どもに大人気らしいの」


「どちらも聞いた感じB級ホラーみたいですが、本当に子ども向けなんですか?」


「えぇ、そのはずだけど。まぁ、効き目はバツグンらしいから試してみてちょうだい!」


 こうやってワタクシとジンがやり取りをしている間も、アレクは落ち着きなくリビングをうろうろして、そこらへんにある物を手当たり次第、触ったり放り投げたりしています。


「あっ、ちょっと! アレク! 何するんですか!」


「あら~、とりあえず床に物を置くと危険だわね。片付けましょ!」


 私とジンは大急ぎで荷物を片付けました。


「やっぱり小さな子どもって目が離せませんね……」


「そうなのよねぇ~」


「とりあえず、できる限り頑張ってみます」


「そうねぇ……あ、ごめんなさい。アタシそろそろ行かないと。ジェル子ちゃん、また明日も様子を見に来るから頑張ってね!」


 こうして、ワタクシと幼いアレクの生活がスタートしました。

 

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