第15話:魔王爆誕

「ふはははははは! 汝らの信ずるものは我が手によって闇に葬り去った! 我を崇め、恐れよ! この世のすべては我のものなり! 人類よ、今すぐ降伏してこの地から去るが良い!」


 男は魔物の大群を従えて、高らかに宣言した。


 ――おい。すげぇ聞き覚えのある声だぞ。


「うわ……ジェルのあんな活き活きした姿、久しぶりに見たわ……お兄ちゃんめちゃくちゃ複雑なんだけど」


「僕は初めて見たよ。すごいドヤ顔だね」


 魔王軍で意気揚々と指揮を執っていたのはジェルだった。正直、身内のこんなはっちゃけた姿を見るのは非常に気まずいし恥ずかしい。

 ――だがここは兄として、調子に乗っている弟に制裁を加える必要があるだろう。


「アレク兄ちゃん、どうしようか?」


「よし、とりあえずイキってる恥ずかしい姿を動画に撮っておこう」


 俺とシロはポケットからスマホを取り出して、ジェルが魔王軍を指揮する様子を撮影した。


 当然、その不審な動きにジェルが気づかないわけがなく、彼は飛竜を駆ってこちらへ向かってきた。


「貴様ら……逃げ出さぬとは死にたいようだな……!」


「よぅ、ジェル。オマエ何やってんの?」


「……あ、アレク⁉ シロ⁉」


「今の心境をカメラに向かって一言どうぞ!」


「え、ちょっと待って、え? 何撮影してるんですか! スマホ止めて! 撮影しないで!」


 ジェルは慌てて両手をばたばたしている。よし、効いてるぞ。俺はさらに追い討ちをかけた。


「オマエのイキってる姿、動画と写真をSNSに投稿したからな」


「いやぁぁぁぁぁ~~!!!!」


 恥ずかしさが最高潮になったのか、ジェルは顔を手で覆って悲鳴をあげた。

 それと同時に障壁は消え、その隙に騎士団が反撃を始め、魔王軍は撤退し始めた。


「見て、アレク兄ちゃん! ジェルの写真、早速いいねが付いたよ!」


 シロがスマホを見てうれしそうに報告した。そんな俺達にジェルが涙目で訴える。


「アレク! シロ! ワタクシが悪かったですやめてください……!」


「拡散希望ってつけようぜ」


「アレクやめて……おねがい、拡散しないで……! ――あぁぁぁぁっ! あびゃあぁぁぁぁ!」


 ジェルが慌てすぎて飛竜から落っこちて恥ずかしさと痛みでのた打ち回っているので、その様子も撮影して徹底的に追い詰めてやった。

 魔王軍は、それを見て魔王が倒されたと思ったのか、あっと言う間に引き返していった。


「おい、ジェル。オマエ、何で魔王になんかなってたんだ?」


 すっかり疲弊しているジェルに問いただすと、彼はゆっくり口を開いた。


「……あの本から出た光によってワタクシが飛ばされた場所は、魔王の本拠地でした」


「やっぱり違う場所に飛ばされてたんだな」


「えぇ。本拠地には先代の魔王が眠っていたのですが、彼はもう戦う力を無くしていたんですよ。それでなぜかワタクシが後継者として選ばれましてね」


「マジかよ……」


「魔王軍が手に入ればアレクやシロを探すこともできるかと思って、魔王の座を引き継いだんですが……いざ魔王軍を統治してみるとあれこれ課題も多くてですね。問題解決に領土拡大せねばと思いまして」


「なに真面目に魔王の仕事してんだよ」


「目的と手段が入れ替わって、当初の目的はどこかへ行っちゃった感じだね」


「すみません。つい目先の問題に夢中になってしまいまして……」


 そう言ってジェルはうなだれた。

 やれやれだ。とりあえず見つかってよかったとすべきか。


 それから俺達はあらためて王様の前にジェルを連れて行って、魔王軍の現状と今後について話し合いをした。

 その結果、お互いの領土の見直しがされて魔王軍は侵略する必要が無くなった。


 対価として魔王軍の領土にある珍しい食べ物や鉱石などがたくさん国に贈られ、交易を始めることが決まった。

 国民は急な変化に戸惑いながらも、魔王軍を少しずつ受け入れているようだ。

 

 ちなみにその直後にジェルは配下の魔物たちに惜しまれながら、引退宣言をしてきたらしい。


「これでこの世界も平和になることでしょう」


「やれやれだな。じゃあ、そろそろ元の世界に帰ろうぜ」


「なら、僕の出番だね」


 そう言いながらシロの手から光が溢れたかと思うと、俺達は元の世界に戻っていた。いつもの店の中だ。目の前のカウンターにはすべての元凶となった本が置かれている。


「いやー、大変だったけど面白かったなぁ」


「僕もいつもと違う二人が見られて面白かったよ。ジェルの魔王姿、すごかったなぁ」


「まさかこの年で黒歴史ができるなんて思いませんでした……」


「大丈夫だって! 皆ダサいコスプレだな~ぐらいにしか思わないぞ?」


「うぅ、それはそれで腹立つんですが」


 涙目のジェルをなだめつつ、俺達は原因になった本を厳重に箱にしまって保管することにした。

 その後、拡散された魔王ジェルの写真はSNSでコラ素材として大流行して、ジェルはしばらく苦しむことになるんだけど。


 まぁ、それは魔王になったジェルが悪いってことで、お兄ちゃんは知らん。だからこの話はおしまい。

 もしどこかのSNSでジェルの写真を見つけたら、いいねでも押してやってくれよな。

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