月見里蓮夜の怪奇譚

もぶぷりん

序観

序観


「見た。聞いた。理解った。……お前はもうこの呪縛からは逃れられない。己の不運を呪え、もしくは――――背負ってみせろ。」

「……………………は?」


見知らぬ老人に告げられた言葉。俺の日常にはそぐわない響きだと感じた。


何故こんな言葉をかけられたのか。いや、

きっと、いつもの帰り道とは違う道を見つけてしまったからだ。

きっと、彼女から連続通り魔事件の話を聞いてしまったからだ。

きっと、この状況がこの世のものではないこと理解してしまったからだ。



背後に這いよる影は死の気配を漂わせ、暗澹たる眼差しで僕らを捉える。

刀身を覗かせた鋭利な刃が、透き通るような冷気に反響して甲高く響いた。

直感で悟る。



余りに理不尽だ。塾帰りの男子高校生が遭遇していいような出来事イベントではないだろう?

これはゲームではないのだ。フィクションではないのだ。

些細な選択ミスで即死だなんて、俺は願い下げだ。




「………なぁ教えてくれよ爺さん。一体どうやったら俺は助かる?」


「……何も聞かず黙ってついて来い。勝手な行動はナシだ。ワシの指示には必ず従え。……そうすればお前も救ってやる。」


「――ハハっ、全くなぁ。、ホント。」




おどけてみせたのは強がりだ。最後まで俺らしく在ろうとする、曲がりなりにも短い人生で得た死生観だ。

恐怖に支配されて死ぬなんて無様な真似はしない。

最後まで足搔いて、この理不尽をあばいてやる。



目で覚悟を受け取った老人は殊勝に頷くと、手を差し出して握手を交わそうとした。


「ワシの名は鬼怒川きぬがわだ。おまえは?」

月見里蓮夜やまなしれんやだ。よろしく。」



これが、鬼怒爺との出会いだった。

もっともこれは序章に過ぎないし、だが始まりと称するには仔細に欠いている。

だから語らねばなるまい。俺がこのような出会いを果たしたきっかけを。

冗談みたいなこの夜を迎えた、その成り行きを。








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