毒
バブみ道日丿宮組
お題:とてつもない夕飯 制限時間:15分
毒
ドキドキ、どんどん、ドクドク。
それは胸の高まりを型どる音。危険信号にも似たそれは、僕に警戒を告げる。
逃げなさい、食べるな、立ち上がれ。
一汗が落ちる。
「どうしたの?」
笑う彼女を目の前にして、逃げる選択肢はとれそうにない。
もう一度テーブルを見る。
黒、真っ黒、ブラックが食器の上に並んでる。
思考がおかしくなるほどに、食べ物の色がしてない。テーブルの茶色のほうが美味しく食べれそうだ。
ひとえに失敗だった。
味音痴で、料理が下手くそな彼女を台所に入れるべきでなかった。
そもそも施錠し忘れたのが運の尽きだ。
その結果、こうして彼女が夕飯を作るきっかけを与えてしまった。
「たくさん作ったから、おかわりしてね」
少食なのを知ってるはずなのに、彼女はその言葉をかけてくる。
わかってるのだろう。
この毒のような見た目をした夕飯がまずいことを。
「味見した?」
「完璧な私には必要のないことよ!」
自信満々だった。
「一緒に食べない?」
「一番最初はあなたが食べてほしいな」
口では彼女に勝てそうにない。
やはりここは一口入れないとダメなのだろうか。
付き合い出した頃、お弁当を作ってもらったことがある。
恋人からのお弁当。胸が躍らないことなんてなかった。
が、蓋を開けてみれば、地獄。
食べ物らしいものは入ってなかった。
あのときの笑顔と今の笑顔はおそらく同じだろう。
僕のことを思って作ってくれた。
それは間違いはない。
僕は彼女を愛してるし、彼女も僕に愛してる。
ただ、食事だけは僕が作るという約束事をして、台所に入るのを禁じた。
施錠ができる台所がある部屋で同棲を始めた。
二度と失敗はしない。
そう思ってたのに、やってしまった。
「……食べるよ」
箸が震えた。拒否反応が凄まじく身体の内の方で蠢く。
パクリと、口に入れた瞬間……意識が飛んだ。
「おはよう。よく眠れた?」
再び意識を覚ますと、ソファの上だった。
「あれ? 寝てた……?」
「うん、1時間ぐらいかな」
そうか。あれは夢だったのか。
よかったと安心すると、
「ご飯できてるから、手洗ってきてね」
地獄は終わってなかったことを理解した。
毒 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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