第4話 力の制御と物語

「……起きて」


とルセに揺すられて起きる。


「おはよう、どうした?」

「……フィーニスがもう来てる」


え!?早くない?もう少し寝ていたかった。そう思いつつ下に行くとフィーニスがいた。


「……早い」


とルセが文句を言うがフィーニスは昨日と変わらず、でかい声で答える。


「すまないが、予定よりも早くお前達を現世に送らなければならなくなってしまった。時間が惜しい!では早速外に出るぞ!」


外に出ると昨日までなかった馬鹿でかい長方形の建物があった。……何あれ?


「今日からあそこで訓練を行う!」


そう言い建物(相変わらず真っ白)に入って行く。中には黒い線で運動場にあるようなトラックが描かれていた。まあ、それ以外は真っ白で特に何もない広いだけの場所だった。


「この中を3周出来るようになれ!」


そんなに体力が無いと思われているのか?流石に馬鹿にし過ぎだと思う。とりあえず走るか。


そしてトラックの中に入り走るが、気づいたらトラックから外れていた。まだ直線を走っていたつもりだったがコーナーをそのまま突っ切ってしまったようだ。


「やはりまだ力の制御が出来ていないな!

もっと力を抜け!」


これでも大分抜いてると思うんだけど。しかし、何度走ってもコーナーを突っ切ってしまう。ルセも苦戦しているようだ。もっと細かく地面を蹴るか?いや、そもそも力を出しすぎているのが問題だから、やはり力を制御できるようにしなければ、この訓練の意味がないのだろう。これは何百回も試行錯誤するしかないか。



恐らく1時間程やっていただろう。気づけばコーナーを突っ切っているということは無くなったが、まだコーナーを曲がりきることが出来ない。あと何が足りないのかと考えていると


「……できた」

「1周しかしてないが…まあいいだろう」


ルセがクリアしていた。頑張らないと。


体感的には30分後、ようやく1周できた。


「2人とも1周しかしてないが時間がないから良しとしよう。その感覚を忘れるな!次は模擬戦だ!」


昨日と同じように6歩下がり、フィーニスの合図で始める。昨日と変わらず1歩で距離を詰める。だが、スピードは落ちている為、気づいたら目の前にいるなんてことは無かった。

そのまま互いに拳を振り、拳がぶつかり合う。そのまま何度も殴り合う。すると腹に衝撃が走る


「ぐっ……」


何が……そうか蹴られたのか。体制を整えないと、そう思い下がるがルセは距離を離さぬように付いてくる。そのまま殴りに来る。体制を崩したまま何とか腕でガードするが一撃だけな訳が無く、そのまま一方的な展開になってしまった。何とかガードできているが崩れるのも時間の問題だ。そう思っていた所でフィーニスが止めに入る。


「そこまで!」


ルセの連撃が終わり俺はそのまま仰向けに倒れそうになった所をルセに支えられる。


「……大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ」

「ルセ、上手く隙をつけていた。中々良かったぞ。タナトもあれほどの連撃に良く耐えていたぞ!それにお前は後衛だから近接はそこそこでいいと思うぞ」

「分かりました」

「今日はこれで終わりにするか。力の加減の仕方忘れるなよ。では、解散!」


そう言いフィーニスは帰っていった。


「……帰ろ」

「ああ」


そのままルセに抱えられる。

……??え、ちょっと?


「下ろして!恥ずかしいから!」

「……やだ。タナトさっき倒れた。だから私が運ぶ」


心配してくれてるのは嬉しいんだけど恥ずかしいんだよなぁ。ただルセの腕から逃れられる術が無いので、大人しく運ばれた。

家に帰り、ベッドに寝かされる。


「……今日は時間あるから、少し話そ」

「そうだね」

「……じゃあ前世にあった有名な本の話を」



それはある兵士が英雄と呼ばれるまでの物語

兵士には家族と大切な友人がいて、幸せな日々を送っていた。

しかし、その日々は隣国との戦争で終わりを迎えた。ただの見回りだった兵士も徴集され戦争に参加することになった。これまで訓練以外で戦闘をした事がない兵士は死を覚悟していた。だが、またあの幸せな日々を暮らしたい。だから死にたくない。その想いが兵士に奇跡を起こした。

兵士の募った想いは1本の強力な槍となり、兵士に生き残る力を与えた。兵士は家族や友人の下へ帰るために戦った。

幾百、幾千の兵士を相手にし、生き残って戦い続けた。兵士は戦争が終わり国に戻った時には英雄と呼ばれるようになった。



「……これは力が全てでは無いと子供達に教えるために良く使われる。」

「良い物語だと思うよ」


確かに護るべきものがあると人は強くなるとよく聞く。その兵士は幸せな日常と家族達を守るために戦った。だから奇跡的に生き残れた。この本はそれを明確に捉えられていると思う。


「じゃあ次は俺が話すか。ある王の伝説の中にある話だ」


それは、13番目の席に座った騎士の話だ。

その騎士は試練を乗り越え王の騎士となった。

そして王は騎士に聖杯の探索を命ずる。

騎士は様々な苦難を乗り越え、ある場所にたどり着き、これに認められた者は聖杯を得るという逸話がある聖人の血によって祝福された盾に認められた。

その後、様々な苦難を乗り越え、無事に聖杯を手に入れ、神にも真に心の清い騎士だと認められ、神のもとに召されたという。地球に住んでいた人なら誰でも名前を聞いたことがあるであろう伝説の話の1つだ。


「……王様酷い。騎士を何人死なせてでも手に入れたかった物?」

「ああ、奇跡をもたらすと言われているんだ」


まあ俺も最初に知った時は、王として自国を守る騎士を何人も犠牲にするのはどうなんだとは思ったな。でもその王も最後の方は妻に不倫されたり、信頼していた騎士に裏切られたりで散々だったと思うけどな。


その後も前世にあった神話や童話について話した。ルセの前世の世界では神は1柱だけだと信じられていたらしい。だから俺が神話を話す度にでてくる神が違うことに驚いていた。俺も神話はさわりだけしか知らないけど、神の名前とかは結構知っているつもりだ。

そういえば、この世界の神はお母さんだけなのか?まあ、人界で他の神がいるなら信仰されているだろうし、人界に行けば分かるか。

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