第1話 転生
目が覚めると真っ白い建物の中にいた。
目の前には銀髪の美女がいて、横には白髪の美少女がいる。さっきまで何かあった気がするけどそのことだけがモヤが掛かったように思い出せない。
何があったんだっけ?確か学校から帰る途中に……そうだ、通り魔に刺されたんだ。それで……あれ?誰と帰っていたっけ?誰かと帰っていたのは覚えているが顔も名前も思い出せない。何とか思い出そうと頑張っていると、目の前の美女が口を開いた。
「おはよう、私の子供達」
そう言って微笑む姿はありえないくらい美しかった。
ん?子供って言ったのか?
自分の体を見ると恐らく身長は160以上はある。
とてもこの人の子供とは思えない。
母にしては若すぎる。
「貴方達は別の世界で死んでしまいました。そして私が貴方達の魂を今の体に入れさせてもらいました」
そっかやっぱり死んだのか。後悔がないと言えば嘘だけど、第2の人生を得たことには感謝しかない。
「私はアステラと言います。一応、この世界の神をやらせていただいてます。」
神!?じゃあ俺は神の子なのか?それならばこの身長の高さも、説明がつくのか?魂を体に入れたと言っていたし、前世の体が元なのかも。
「母である私が、あなた達にこの世界での名を授けましょう。貴方は今日からタナトと名乗りなさい」
「はい」
何故か、自分の名前なのだろうと分かった。
赤子をあやすかのような優しい口調だが、有無を言わせぬ迫力があり、俺は新しい名前を受け入れることしか出来なかった。
「貴女はルセと名乗ってください」
「……はい」
少女……ルセが初めて口を開く。小さく、感情があまり感じられない声をしている。
「では、これからよろしくお願いしますね?私の子供たち」
「「はい、お母様」」
無意識に「お母様」と言っていた。神の威厳とでも言うのだろうか。何故か自然と敬語が出てくる。
「ふふ、お母さんでいいんですよ?」
「分かりました。お母さん」
「……はい。お母さん」
「ええ、それでいいんです。気軽にいきましょう」
そう言ってお母さんは笑った。やっぱり神の威厳的なものはあったのかもしれない。気軽に、とお母さんが言った途端に感じていた圧が軽くなったような感覚があった。
「タナト、ルセ、貴方達はこれからずっと一緒にいることになります。なので、互いのことをよく知り仲良くなって下さいね。」
「「はい」」
「まずは、当分の間住んでもらう家に案内しますね。」
そうして、俺たちは教会のような細長い建物から外に出る。
この世界で初めて見る外の景色は……建物が2つあるだけだった。それ以外は本当に何も無い。特徴は、強いて言えば、全てが白いこと。建物も、地面も、果ては空までも全てが白い。
「ここは天界と呼ばれる場所です。まず貴方達にはここで暮らし仲良くなること、修行をしたり、この世界について知ってもらいます」
修行?強くなれってことか。ここは異世界らしいからもしかして魔法とかあるのかな?
あるなら使って見たいな。
そんなことを考えていると1軒の家についた。
真っ白な2階建ての家だ。
「ここが貴方達が当分住む家です。ここに2人で過ごして貰います」
2人で……仲良くなるには必要なことだと割り切ろう。
「では、私は用事があるので帰りますね。
2人ともゆっくり休んでて下さい。
明日はこの世界のことを知ってもらいま
す」
そう言ってお母さんはさっきの真っ白な建物(外から見ると教会のような建物だった)に戻っていった。さて、まずは家の中がどうなっているのか見たいな。
「じゃあ入ろう」
横に立っているルセに声をかける。
「……うん」
家に入り、まずは家の間取りを見て回る。
まずは1階、ここはリビングのようになっている。テーブルと2つの椅子、それとキッチンがあるだけ。あ、壁にカレンダーらしきものがある。1階はそれだけだった。問題は2階で起こった。
階段を上がると廊下もドアもなく、リビングと同じぐらいの広さの部屋?に繋がっていた。ベッドが置いてあるから、ここが恐らく寝室なのだろうけど……
部屋には棚が2つとテーブルと2つの椅子、そして1つの馬鹿でかいベッドがあった。
ベッドが1つしかない。
……どうしよう。よし、後で考えよう。
まずはルセと交友を深めなければ。
椅子に座り向かい合う。
確認も兼ねて1つ質問する。
「ルセは前世の記憶どこまである?」
「……自分がどこに住んでいて、何をしていたかは思い出せる。けど、自分と両親、それに友人の名前が思い出せない」
やっぱりか。
「俺も、人の名前と顔だけ思い出せないんだ。」
そう、あれから死ぬ直前まで一緒にいた人を思い出そうとしているが、何も思い出せないでいた。
「……でも、どうせもう会えないのだから、思い出さなくて良いと思う」
少し薄情な気もするけど、確かにもう会うことは無いのだし無理に思い出す必要も無いか。
それからルセとは色んな話をした。前世に好きだった料理とか、そういえば1階にキッチンがあったけど、料理はできるのかとか。ルセはそこそこできるらしい。ちなみに俺は全く出来ない。そんな他愛も無い話が続き、大分ルセのことが分かってきた頃、段々眠気が襲ってきた。
「……眠い」
「そろそろ寝るか」
そうして目を向けた先は、1つのベッド。
……あ。
「ルセがベッド使いな」
ここはレディファーストというやつだ。椅子を2つ並べれば寝れないことも無いはず。多分。
「……この大きさなら2人で寝れる」
その厚意今はいらないよ!
ルセと並んで寝るのは緊張して無理だ。
少なくとも後1ヵ月はいる。何とか理由を見つけ無ければ。
「会って間もない男と一緒のベッドで寝るのは不安だろ?」
こんなので納得するわけないじゃないか!
でもこんな言葉しか出て来なかった。
「……分かった。でも明日はタナトがベッド使って」
ああ、なんて良い子なんだ。
「じゃあ明日は使わせて貰うよ。おやすみ」
「……おやすみ」
椅子を2つ並べて横たわる。膝より下は入りきらず膝を曲げ足の裏を床につける形になってしまったが、余程眠かったのかすぐに寝れた。
「……寝たかな?」
ベッドから体を起こし、タナトの方に目を向ける。今日初めて会った人だけれども、何故か落ち着くというか、安心感があるというか、初めて会った気がしないくらい気を許せた。
そんなタナトは遠慮してなのか、ベッドでは無く、硬いイスを二つ並べて眠っている。
あんな所で寝たら体が痛くなるに決まってる。お母さんも私達はずっと一緒にいることになるって言ってたから、一緒のベッドで寝れるくらいには仲良くなった方が良いと思うけど……
でも、会って間もない人と一緒に寝るのは嫌だっていうのは分かる。でもでも、そんな所で寝るのは体に良くないのではと心配になる。
……タナトは嫌がるかもしれないけど、我慢してもらおう。タナトに近づき、起こさないように抱える。……あれ?軽い。
そういえば、体に魂を入れたって言っていたからこの体の筋力が凄いのか。
タナトを私の横に寝かして、私もベッドに入る。
「……おやすみ」
こうして私達が神の使徒となって最初の1日が終わった。
☆☆☆
お読み下さりありがとうございます。
2話以降もよろしくお願い致します。
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