こころの在処
光之空
「全てを失った日」
突然、身体の左側に鈍い痛みを感じた。
その次の瞬間には右側も痛くなった。
周囲から聞こえる悲鳴、慌てる声を尻目に、意識はどんどん薄れていく。
あぁ。何が起きたんだ?
今日は仕事がある日だった。寝坊した。
寝坊すればそれは急がなきゃいけない。急いだ。
急いだら人をはねた。車に凹みが出来た。
人が10mほど吹っ飛んだ。嘘みたいに吹っ飛んだ。
急いでいたから、そのままにした。
会社へ向かった。仕事をした。
お昼になって警察から連絡が来た。
明日、警察に行かなくてはならなくなった。
仕事をしなきゃいけないのに。
お金が......
お金が......
オカネガ............
目が覚めるとまず消毒の匂いがした。
ピッピッピッという一定のリズムで繰り返される電子音も聞こえる。
あれ?ここってどこだ?
「お兄ちゃん?気づいた?」
女性の声も聞こえる。なんだか嬉しさと不安感が混ざったような声だった。
「やっと目が覚めましたか。あぁ、そのままで大丈夫ですよ」
今度は落ち着いた声の男性の声が聞こえた。
「何が起きたかわかりますか?」
「......何が起きたんですか?一体ここはどこなんです?」
「それでは1から説明しますね」
男性曰く、
僕は事故に遭ったらしい。恐らく頭を強く打って、脳の一部に損傷が見られ、それのせいで記憶がないかもしれないということ。
事故を起こした車の運転手には連絡がついていること。男性は医者で、ここは病院であること。などなど......
「とりあえず、意識が戻ったので、もう少し細かく検査するのでまだ入院してもらいますね 」
だ、そうだ。
「君が事故を起こした張本人で間違いないね?」
「もちろんです」
「じゃあ現場検証とかするからもう少しここにいてもらうけど、連絡したい相手とかいるのかい?」
「............」
「そうか。じゃあまた明日からよろしくな」
今日が終わった。一円も稼げなかった。
なぜ事故なんて起きたんだろう?
なんでアイツがいたんだろう?
アイツさえいなければ事故なんて起きなかった。
アイツが悪いんだ。
アイツがわるいんだ。
ぜんぶ。
ぜんぶ。
変な輪っかみたいな機械の間を何回も何回も通された。
先生と他愛もない話と、いくつかの小難しい問答をして、今日はお終いとなった。
ベッドで横になっていると、また例の女性が「お兄ちゃん!」と駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん......覚えてない?わたしのこと。わたしたち家族のこと。全部......忘れちゃった?」
流石に.....身に覚えのないことを言われても......
「あの、申し訳ないんですけど、どちら様でしょうか?」
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