走れたぬき

花るんるん

第1話

 たぬきは激怒した。必ず、かのきつね王を除かなければならぬと決意した。

 今日は結婚式間近の妹のため、久々に街へ買い出しにやってきた。

 だが、街に活気がない。

 街の者に話を聞くとこうだ。善政で知られるきつね王が何を思ってか、街の各所にお触れを出し、庶民の友「緑のたぬき」を街から排することにしたと。

 たぬきには政治がわからぬ。しかし、やってよいこととそうでないことの分別は十分にあるつもりだ。

 街では不満が高まり、「緑のたぬき」を求める者たちが集まり、群衆が王宮に押し寄せた。もちろん、群衆の中には、たぬきもいた。

 群衆は近衛兵に入宮を拒否されるかと思っていたが、意外にも、巨大な中庭に通された。群衆は「ここにいればきつね王の真意が聞ける」と思い、ずっと、ずっとずっと待っていたが、きつね王は一向に現れない。

 群衆の中には「これは、自分たちを一網打尽にするための罠ではないか」と疑り始める者も出、不安でザワザワしてくる。

 そんなザワザワのさなか、バルコニーに、王妃のうさぎ姫が現れた。深々しくお辞儀した後、こう言った。

 「『緑のたぬき』がなければ、『赤いきつね』を食べればいいじゃない」

 たぬきは再び、激怒した。

 「王よ!」

 「これは、何の騒ぎだ?」

 うさぎ姫のとなりに、きつね王が現れた。

 「このお触れのせいかね?」

 うさぎ姫はうなずいた。

 「どうしてこんな勝手なことをしたんだ?」

 「あなたが」とうさぎ姫は言った。「あなたが最近つくった『赤いきつね』のおいしさをみんなに知ってほしかったの。そしたら、お触れなんかすぐにやめるつもりだったのよ。ごめんなさい」

 「もう二度とするでないぞ。それはそうと」ときつね王は言った。「さっき威勢よく、『王よ!』と叫んだ者はいずこや?」

 「私です」とたぬきは言った。

 たぬきはどんなに厳しい刑罰も覚悟した。誤解とは言え、自分の行ったことだ。仕方あるまい。ただ、故郷に残した妹にはすまないと思った。

 「近こう寄れ」ときつね王は言った。

 ああ。王、直々に処罰を下されるのか。

 「早く来い」

 たぬきは、近衛兵に案内され、バルコニーに上がった。

 「あんまりと遅いと、伸びてしまうではないか」

 たぬきには、『赤いきつぬ』が差し出された。ほかほかの食べ頃だ。

 きつね王の手には、『緑のたぬき』があった。

 広場の群衆にも、『赤いきつぬ』と『緑のたぬき』が振るまわれた。

 「ああ、うまい」とたぬきが言うと、皆も口々に「うまい」「おいしい」と言う。もちろん、きつね王も。

 「心配をかけてすまなかったな」ときつね王は言った。

 ああ、これが、『赤いきつね』と『緑のたぬき』のあたたかさか。

 来週の妹の結婚式も、こんな感じでうんとあたたかいものにしよう。

 そう、たぬきは思った。

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走れたぬき 花るんるん @hiroP

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