第7話 高速移動。
奴隷商人の懐に血まみれの地図があった。
そこには、簡単な街や村と街道の繋がりが書いてあるようだ。
文字も書いてあったので、実際読めるかどうか確認することにした。
「この先に街?
ドロアーテでいい?」
「そうよ、ドロアーテ」
俺はこの世界の文字を読めるみたいだね。
「さっきも言ったけど、ドロアーテは私が奴隷として売られる予定だった街。
でも街としては大きいからマサヨシが活動するには良い所かもしれないわね」
あまり行きたくないのか、クリスは嫌な顔をする。
「行かない方がいいのかな?」
俺が尋ねると、
「いいえ、マサヨシが行くなら、ドロアーテに行くわ」
と、何かを決心したように言った。
「じゃあ、まずドロアーテ行くか」
馬が殺されたので歩くしかない。まあ、馬が生きていても俺には扱えない。
歩くしかないのか……。
ふと、「移動も『イメージ』を使った魔法で何とかならないかな?」と思った。
やっぱ「平原を走る(疾走する)」といえば、「〇ム(ド〇ッジでもヨシ!)」。
ジャイアントなバズーカを持って中腰のホバーで走る。
子供のころブラウン管テレビで見ていたのだ。
何ならくるくると回るチャンネルだぞ。
そのド〇をイメージして魔力を通す……。
足が数センチ浮き上がる。
いけた!
そして前進をイメージすると移動を始める。
意外と安定だ。
俺の体型も〇ムっぽくて重心が低いからか?
本気の魔力で移動して、二秒ぐらい経ったらクリスが点になった。
俺的に、この移動を「高速移動」と名付けよう。
ウンウンと頷きながら、勝手に満足していると……俺クリスに睨まれていた。
ありゃ? クリスがちょっと怒ってる。
やばっ!
急いで全力で戻った。
止まる際の勢いでクリスの髪が靡く。
俺はその場で「気をつけ」をすると、
「魔法を使って楽しんでしまいました。ごめんなさい」
最敬礼の四十五度でクリスに先手で謝った。
妻が怒っていた時は有無を言わさぬ最敬礼、これが一番だ!
「ずるい。放っていくなんて……」
クリスがシュンとしている。
えっ? クリスがちょっと涙目だ。俺は女性の涙には弱い。
何とか許してくれないかな?
俺はクリスに近づくと、
「そうだな、だったらこうやって連れていくことにするよ」
そう言ってクリスを抱き上げた。
俗に言う「お姫様抱っこ」である。
妻との結婚式以来か?
前撮りでウエディングドレスのまま抱っこさせられたっけ。
ドレスの生地が滑りやすい生地だったから苦労したよな……。
などと思い出す。
ん?
クリスはおっさんに抱っこされるのは嫌かな?
クリスの顔を覗き込むと、顔を赤らめて手を首に回してくる。
許されたようだ。
今更だがクリスには肉感がある。
細い体だが、出るところは出ていた。
男として気になるが、気にしていないように見えるよう努力する。
俺は、
「さて、ドロアーテへ行こう」
と声をかけると、全速で街道を高速移動を開始した。
意外と音がしないのね。
エンジン使ってないからか?
後方へエアらしきものが噴き出す音が「シュー」ってするだけ。
しかし町までの距離感がわからん。
奴隷商人の地図は、街の名前と街の名前を線でつないでいる適当な地図なのだ。
そんな適当な地図じゃ役にたたない。
魔力を使ってマップ表示できんかな?
そう思うと、手に入れた地図よりも正確な地図が視界の右上に表示された。拡大すると半透明になり、視界全体に現れ縮尺も調整できた。
さすがにナビゲーションは無理だろう。
と思うと、
あれま?
マップ上に矢印が表示。
地図上にもルート表示。
道なりに行けって?
なら、レーダーとかも?
周囲の魔物黄色、敵対者赤表示、その他白表示に……。
すると、光点が表示された。とりあえず近くに敵は居ないことがわかる。
どれくらい速度が出てるだろう。
そういや〇ムって、時速九十キロメートルぐらい出る設定らしい。
クリスは速度に慣れていないのか、抱き着いて目をつむったままだ。
胸のふくらみが当たるのだが、それは役得ってことで……。
しばらく走ると、道で人にすれ違わないことに気付いた。
「なんで、人が居ないんだろうな」
俺はクリスに聞いてみた。
「なに?」
風切り音がうるさいのか、聞こえないらしい。
「何で人が居ないんだろうな!」
再び大きな声で聞くと、
「さっき見たでしょ、この道を通るとゴブリン達に襲われるからよ!」
とクリスは大きな声で答える。
あの奴隷商人のように、わざわざ危険を冒してまでこの道を選ばないか……。
人が通らないせいで、エサになる者が通らない。
そのせいで、ゴブリンも必死になって、余計にクリス達は狙われたのかもしれないな。
まあ、お陰でクリスに会えたわけで……。
たまたまでも助かったな……。
俺はそんな事を考えながら街道を走るのだった。
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