第百十三話 パーティーメンバー編成会議
◆古錆びた社・境内
いつもの特訓場所に、今日はスペシャルゲストが来てくれた。
みんな大好き黒騎士の旦那である。
「ここがお前達の秘密基地かね」
「秘密基地というか、拷問部屋というか」
「秘密のSMクラブのようなものです」
邪神がゲンコツサイズのマリトッツォを頬張りながらとんでもない事をほざく。
……どうやらこいつの中では、俺という男が股間を蹴られて大喜びするド変態という事になっているらしい。
まったく、どうしたらそんな歪みきった解釈ができるのだろうか。
俺は被虐性愛者じゃないし、仮にそうだとしても、女王様はウチの彼女以外あり得ないし、認めない。
でもなぁ、はーたんベッドの上だとバリバリの
この前も遊びの一環で首輪をつけてやったらものすごく喜んじゃって……あっ、待って
「この猿が」
邪神がゴミを見るような眼で、俺の身体の一部分を
はい、すいません。
今のは完全に俺達が悪いです。
色んな意味で
「まぁ、秘密基地って言えばそうなのかな」
閉じ切った境内から見える景色は、本来ならば
無論、これは邪神がそのように
現状において、時と因果の女神ヒミングレーヴァ・アルビオンが保有する唯一の
このように周囲を密閉してしまえば、下界の干渉は一切受けつけなくなりあらゆるナイショ話を安心して行えるようになるのだ。
ここならば、ゲーム知識をいくら喋ろうがひけらかそうが問題はなく、そして俺の秘密を共有する者達とのメタ会話にもうってつけってワケよ。
俺とアルと旦那に、後はハーロット陛下。
今日はこの四人で我がクランの今後の方針について話し合う予定だったのだが……あの王様、「俗事は主らに任せる」とか言ってユピテルと川釣りに出かけやがったからなぁ。
ほんと、自由というか制御がきかないというか。
「気にするな、リーダー。アレはどんな相手に対してでもアレなのだ。むしろリーダーは、気に入られている方だと私は思う」
「だといいんっすけど」
まぁいいさ。
今の段階ではそれで問題ない。
陛下の人柄上、一度丸投げした案件に関しては、よっぽどの無茶でもない限り
「それじゃあ、今回の会議を始めたいと思います」
俺の下手くそな音頭に合わせて、白の女神と黒の騎士が
こういう時の邪神は意外と従順というか素直である。
いつもこれだけ聞きわけがよかったら良いのになと思う反面、若干の薄ら寒さを感じてしまうのは、多分俺があまりにも裏ボスの横暴に慣れ過ぎてしまったせいなのだろう。
さておき。
「今日は
言いながら、俺も自分で作った攻略情報の束に目を通す。
そこに書きだされていたのは、まだ攻略されていないダンジョンのボスと落ちる
そう、この会議の目的は、ゲーム知識と現実経験の擦り合わせによる最強攻略プランの作成にある。
最終階層守護者の術技や特性をゲーム知識から読み解き、どのように打倒するかを考え、それに対応した選りすぐりのパーティーメンバーを整える――――場所はみみっちいし、誰かさんはマリトッツォをバカ食いしているが、やっている事はまごうことなきウチの最重要意志決定会議。
ったく、このギャップがたまんねぇなオイ。
「色々考えてみたのだが、私としてはやはりここを押さえておきたい」
数時間の読み合わせの末、旦那が選んだダンジョンは四十層級のダンジョン、俗に言う“桜花十傑”と呼ばれるトップ区域の一つだった。
「『嫉妬』かぁ、流石旦那。いきなり
お目が高いが難易度も激クソ高い。
ダンジョン『嫉妬』のボスは“魔王”にして亜神級最上位。
あのザッハークがヌルゲーに見えてしまう程の大怪物だ。
幾ら旦那がパーティーリーダーを務めるとはいえ、そう簡単に太刀打ちできる相手ではない。
そもそも『嫉妬』のボス自体が、旦那との相性が
その事について俺が正直な感想を述べると、黒騎士は「問題ない」と鎧兜を縦に揺らした。
「確かに奴との相性はあまり良くないかもしれないが、それは攻撃面に限った話だ。邪龍王の時分では使えなかったカードも使える上、やり方次第では効果的な
「でも、妨害だけじゃ奴は倒せないぜ。生半可なアタッカーじゃ……それこそシラードさんクラスの相手でも無力化される恐れがある」
シラードさんが弱いわけじゃない。
ただ『嫉妬』に関しては、とことん相性が悪いのである。
アレは
ハーロット陛下の極まった不死性とは別種の特性でありながらも、状況次第では陛下とすらも引き分ける可能性を持ち合わせた不滅性――――そんな化物を倒す為には、特定のメタキャラを準備する必要がある。
「聖女と蒼乃をもらいたい。可能ならばハーロットも組み込めれば盤石だ」
「また随分と強欲な……」
旦那と遥とソフィーさんと陛下。
ほぼほぼウチの最強編成である。
「なんとなく、旦那の思い浮かべているプランは分かりますけどね、幾らなんでもそりゃあ大人げなくないっすか」
「そうかね?
「……それは、そうっすけど」
『嫉妬』で落ちる天啓は、ボスが“魔王”という事も相まって性能がドチャクソ高い。
そして今挙げたメンバーは(当の旦那も含めて)、全員“彼女”の天啓とのシナジーがこの上なく高く、そして
天啓の獲得が確率抽選の旦那を除けば、間違いなく最適な強化を受けられるだろう。
「リーダーのパーティーとの兼ね合いもあるので、無理にとは言わんがね。私の第一志望は、『
「うーん……」
諸々の説明を聞き終えて、まず抱いた感想は
だって旦那の選んだパーティー構成が俺の第一志望とまったく被らなかったもんだからさ。
予想通りというか、あまりにもドンピシャ過ぎたものだから、思わず「えっ? いいの」って呟きそうになっちゃったくらいだよ。
「……驚いた。我ながらかなり無理のある
あらら、バレてら。
やっぱりサングラス一つじゃ、俺の
特に旦那みたいな歴戦の強者相手だと――――まぁ、いい。旦那と腹芸するつもりなんざ、
バレたところでノープロブレム。ちょっと俺ちゃんが恥ずかしい思いをしてお
「別に、何からなにまで見通してたってわけじゃないよ。幾つかの組み合わせとプランの中から旦那の好みそうな選択肢を羅列して、その中でも
「つまり“読んでいた”のだろう?」
「だから違うって。“読んでいた”っていうのは、ほぼ九割方の確信を抱けてた場合にのみ使う事が許される
「……………………」
「黒騎士、無駄です。愚かしい事にこの男は、どこまでも自分の才覚に無頓着なのですから」
白の女神と黒の騎士が、同時にため息のようなものをつく。
なんだそれ、人を一昔前のウェブ小説主人公みたいに言うな。
彼らは本当に才能があって強いから、その
対する俺ちゃんに、そこまでの
精々強い奴らのブレイン役として、みんなの安全と成功をある程度支えられるだけの知識と事務処理能力に長けてるっていうそれだけの話だ。
流石に“役立たず”とまで自分を卑下するつもりはないけれど、こんなもんゲーム知識があれば誰だって出来る事だし、
まぁ、その辺の話は一旦置いといて。
「とりあえず二人共さ、俺のプランも聞いておくれよ。自慢じゃないが、結構イケてるプランだぜ、コレ」
そうして俺は、ダンジョン『嫉妬』に勝るとも劣らないぶっ壊れ天啓がドロップするとある三十五層ダンジョンの話を二人に語り始めた。
◆◆◆第一回“
・以下の選択肢の中から一つ選択してください。なお、このアンケートの結果はメンバー選抜の参考資料として提供されるものであり、赴任先を確約するものではありません。
また、クランメンバーの皆様に、公正な目線で赴任先を選んでいただく為に、あえて各パーティーのリーダー役については伏せさせて頂きます。その点につきましてはご了承ください。
・あなたはどちらのダンジョンを志望いたしますか。AかB、もしくはどちらでも良いの三つの中からお選びください
・Aプラン:ダンジョン『嫉妬』(備考:全四十層、準五大級)
・Bプラン:ダンジョン『
◆◆◆各メンバーの解答
・蒼乃遥:A
・清水ユピテル:B
・火荊ナラカ:どちらでも良い
・
・ソーフィア・ヴィーケンリード:どちらでも良い
・会津・ジャシィーヴィル:どちらでも良い
・ハーロット・モナーク:A
・空樹花音:B
◆◆◆最終辞令
以下のメンバーを十月度の探索メンバーとして各ダンジョンに派遣する。
・ダンジョン『嫉妬』探索班:黒騎士(パーティーリーダー)、蒼乃遥、ソーフィア・ヴィーケンリード、会津・ジャシーヴィル、ハーロット・モナーク
・ダンジョン『天城』探索班:清水凶一郎(パーティーリーダー)、清水ユピテル、火荊ナラカ、虚、空樹花音
───────────────────────
・次回、いよいよ旅立ち!おっ楽しみに!
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